コール・ミー!!!
…これだけは、トオヤに説明出来ない。



正直に話すわけには、いかない。




「い、いえ、あの、滝君が私の夢に出てきたという、過去の…」



瑠衣が見苦しく、当たり障りの無い言葉で逃げようとすると、トオヤは今まで瑠衣に見せたことの無い、有無を言わせないといった厳しい表情を見せた。




「どういう、夢?」




…無理。




…決して、言えない。





「言えません」






トオヤの目が、鋭く光った。





瑠衣はあっという間に、校舎の壁際に追い詰められた。






「言えないような、夢なの?」






密着されて身動きが取れなくなり、瑠衣はトオヤに懇願した。





「お願い、…もう、戻らないと…」







彼は瑠衣の耳元で、ゆっくりと囁くように言った。







「夢の中で、滝と何をしたの?瑠衣」







彼の抑揚の無い声だけが、耳の中をくすぐり続ける。






「正直に教えて、瑠衣」






瑠衣は、どうしたらいいか、わからなくなってしまった。






「…怒らないから…」





トオヤはさらに、囁き続ける。










夢の中で滝君とは何もしていない、と、嘘をつくことは出来る。

あれはトオヤに言うべき内容ではない。



でも、この人には、嘘は決して通じない。








「キスを」


ついに、言ってしまった。


















「…そう」













トオヤの表情は、さっきよりも険しくなっていった。







そしてまた、耳元で囁く。







「…一度だけ…?」










トオヤは瑠衣の髪に触れ、下から撫でるように両手で指を絡ませた。










瑠衣は耐えられなくなり、首を横に振った。














「何度も、キス、されたんだ」













トオヤはもう、何を考えているのか解らない表情を見せた。













「夢の中で、だよ…」

瑠衣は、自分の声が掠れるのを感じた。

















「夢の中でも、許さない」






























トオヤは急に、瑠衣の唇にキスをした。
























今までとは違う、狂ったような、本気のキス。















何度も、













何度も、
















何度も。

















彼には瑠衣しか見えておらず、



















瑠衣が彼以外を見ることを、その目は決して許さない。




















「トオヤ、誰か…来るかもしれないから…」

















息ができないくらいの濃厚なキスの合間に、

瑠衣はそれだけを言うことができたけれど。



















「だから、何?」




















永久に離してくれないのではないかと思うほど、

狂ったようなキスは、深くなっていった。


















トオヤは急に瑠衣から顔を離し、











潤んだ目で瑠衣を5秒ほど睨んでから、

























「…瑠衣のバカ」




















と言って、立ち去ってしまった。




















瑠衣はその場に崩れ落ち、しばらくは動くことも考えることもできなかった。




















確かに、バカ。


































その後は何も無かったかの様に、クラス展示の準備を進めた。

トオヤは夏休みの間の登下校の際も、基本的には毎日瑠衣の送り迎えをしてくれていた。

けれど、あの校舎裏の出来事があってからは、いつもに増して口数が少なくなってしまい、必要以外は瑠衣と話さなくなってしまった。














そして、新学期が始まり、
文化祭当日がやって来た。






















クラス展示は『お化け屋敷』で、泉美、雅と一緒に瑠衣は受付を担当した。

「交替したらまず始めに、一度この教室にも入ってみましょうね」

「私、お化け屋敷苦手です…」

「大丈夫、私がついてるから!」




そこに手芸部の葵と桃花が遊びに来てくれたので、チケットを受け取った瑠衣は葵達に向かって微笑んだ。

「楽しんでいってね」

葵が、キョロキョロしながら瑠衣に

「久世君は?」と聞くと、


「お化け」


と瑠衣は、教室の中を指差した。



「ほら、早く行こ!!」


と、なかなか怖がって入りたがらない葵の手を、桃花が楽しそうに引っ張って、どんどん中へと入っていく。


「桃花~…、私、怖いよ~…」



手芸部で1番強そうな葵が、情けない声をあげ手を引っ張られながら、しぶしぶ中へと入っていった。


楓とモッチは今、手芸部の写真館で頑張っている。
後で、瑠衣も交替することになっていた。




「交替よ」

仙崎さんが、受付に座る瑠衣達3人に声をかけた。

「うん。じゃ、受付よろしくね」

瑠衣は、席を立ちながら返事をした。

「結構上手だったよ、久世君のお化け」

飯田さんは感心した様子で、瑠衣に教えてくれた。


「本当?楽しみ」


瑠衣はお化け姿のトオヤを想像した。
上手なお化けって、一体どんな感じなのだろう。


どんなに怖くても、あの校舎裏でのトオヤの迫力には及ばないと思うけど。



もう交替の時間になるから、お化け屋敷の中では会えないかも知れない。
…まだ、普通に彼と話せていない事を、とても悲しく感じてしまう。


怒らせてしまった自分のせいだ。
このままでは、いけない。


何とかしなくちゃ…。



「ほら、行きましょうよ瑠衣」


泉美が瑠衣に、中に入ろうと声をかけた。


瑠衣は、怖がる雅の手を握り、


「うん、行こう」


と覚悟を決めて、返事をした。
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