コール・ミー!!!
トオヤが手芸部の部室や、北海道の合宿中に作っていたドレスとは、違う。

胸元にドレープを効かせた、古風なシルクシャンタンドレスが、2着。

スカートにはフリルが段々状に重ねられており、映画に出てくるお姫様の様に、ロマンティックな華やかさに仕上がっている。所々、見たことの無いデザインが施されており、さすがにプロの作品である。

『婚約者は、ベージュ』

『未来の妹は、ブルー』


添えられたグリーンのカードには、そう書かれている。



理衣は面白がって、ベージュのドレスを指差し、冗談を言った。


「こっちを私が着たら面白いね?」


瑠衣は、慌てて首を横に振った。


「こっちは絶対駄目!私が着る。…着替えよ!」


これ以上トオヤを怒らせたら、本当に愛想を尽かされるかも知れない。



試着室でドレスに着替え、アクセサリーを選んで外に出た。

桃花と葵が、出てきた2人を見て、目をまるくした。


「凄く、似合うねえ…!」

「さすが、2人揃うと、圧巻だね~…!」


写真館に戻ってきた楓が、感嘆の声をあげて瑠衣と理衣を見た。

「久世君に合宿中、お願いされたのよね。この2着は瑠衣と妹さんのだから、瑠衣には秘密に保管しておいてくれって」


そこに、もう一つの撮影スペースにて写真を撮り終えた雅と泉美がこちらにやって来た。

二人は、瑠衣が作ったドレスを着ていた。


雅が着ているドレスは、アニメの『ティアラ』ちゃんの衣装の様なグリーン地で、ピンクの薔薇を両肩にあしらった、妖精風ドレス。改良に改良を重ね、彼女に似合うように瑠衣はデザインを最初から練り直し、どうにか納得のいくドレスを完成させた。

泉美に着てもらいたくて考えた、ハイビスカスをイメージした赤いオフショルダードレスは、思った以上に彼女に似合っていた。レースを使用するのをやめ、ゴールドのビジューをアクセントに、当初の予定より大人っぽく仕上がっており、彼女の華やかさを引き立てていた。


「2人とも、すごく似合ってるね!」


泉美は得意げに頭を上げた。

「瑠衣が作ってくれたドレスだからね」

雅は、顔を赤らめた。

「本当に似合いますか?何だか少し恥ずかしいですが…」



「似合い過ぎる!」


作ってよかった!!

瑠衣は、最高の気分になった。


自分が作ったドレスを、2人が着てくれたことにも、嬉しさがこみ上げる。



桃花が、ドレスを着ている瑠衣達に声をかけた。


「ほら、写真撮るよ!」


まず瑠衣と理衣の2人を背景の前に立たせて写真を撮り、その後で瑠衣、雅、泉美の3人を立たせて、何枚か桃花は写真を撮ってくれた。


「せっかくだから、全員で撮りましょうよ」


泉美が提案してくれて、最後は全員集まって、記念の写真を撮ってもらった。

























夜の9時。
自室のベッドの中で、自分の携帯電話に装着した白い携帯ケース『シルリイ』を見つめながら、瑠衣はため息をついた。


楽しかった文化祭は、あっという間に終わってしまった。


クラスでのお化け屋敷や、手芸部での写真館の活動は達成感があったが、トオヤにほとんど会えなかった寂しさは大きかった。




『瑠衣から言わないと』





『キスして、って』





……。






『シルリイ』で今トオヤを呼んだら、一体どうなっちゃうの?











本物は、イタリアに向かう飛行機の中にいるのかも知れないし。







部屋の中のぬいぐるみのどれかに入って現れるの?トオヤ。







キスして、って、勇気を出して言ったとして、いつしてもらえるの?

















寂しすぎる。















瑠衣は涙が零れそうになりながら、『シルリイ』に触れた。























『ハジメマシテ〜〜!!・ワタシハ・シルリイ13〜〜!!』


妙に、テンションの高い声が聞こえてきた。

そして、

スマホの画面には、奇妙なダンスをしながら喋る白猫の絵が、登場した。


『シルリイ13』は、歌う様に話し出した。


『ア〜〜ナタハ・ダ〜レデスカ〜〜?』


「…瑠衣」


瑠衣は、悲しくなりながら返事をした。


『ショキトウロクノタメ〜〜・イクツカ・シツモン・シテイイデスカ〜〜?』



「…うん」



『ルイハ・トオヤ・ノ・トモダチデスカ〜〜?』


「違う」


『ルイハ・トオヤ・ノ・コイビトデスカ〜〜?』


「そう」


『デハ・シルリイハ・ルイノトモダチ〜〜!!!』



「…うん?」




『トオヤ・ヨビマスカ〜〜?!!』






「…うん。お願い、シルリイ。トオヤを呼んで」








『ハイ〜〜!!ワカリマシタ~~~!!!』













『シルリイ13』は、おかしな呪文のような言葉を唱えだした。













「…」













『…』













「…」













『…キマセンネ』















「…シルリイ~~…」













瑠衣は、ポロポロと涙が零れてきた。













『ルイ、ダイジョウブ?』













「…駄目…。トオヤがいないと、…全然駄目…」













瑠衣は、声をあげて泣き出した。













「寂しい、トオヤ…、会いたいよ…」














ドレスも、プレゼントも、いつもすごく嬉しかったけど。













ただ、













あなたに会いたい。























「やっぱり、泣き虫」

















瑠衣は、その声が聞こえた瞬間、驚いて目を見開いた。













瑠衣のベッドの中に、トオヤが横になっていた。














「…トオヤ!!!!」












瑠衣は仰天し、彼を見て叫んでしまった。










「うん」














「どうして…?」














「呼んだでしょ?俺を」













「でも、イタリアに行っているんじゃ…」











「うん。飛行機の中。でも、瑠衣が呼んだから」












「…???」










瑠衣は、自分の右手で彼の頬に、恐る恐る触れてみた。

温かく、滑らかな肌の感触。




「…どうなってるの?」








「さあ。…それより」








トオヤは、ぐっと瑠衣に顔を近づけた。









「何て言うんだっけ?瑠衣」









「…」











「瑠衣は、どうして欲しいの?俺に」




















瑠衣の心臓が、音を立てた。

























「…夢に、出てきて欲しいの」














トオヤは頷き、















「それから?」
















と、聞いてきた。
















言わないと、絶対に、許してくれないみたい。















瑠衣は、すぐ近くにある、トオヤの瞳を見つめた。










そして、
恥ずかしいので、小さな声で言ってみた。





「キスして」
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