甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
頼んだコースの前菜が運ばれてくると、間宮さんは水を一口飲んで言った。

「これから一緒に暮らすわけだけど、正直まだ広瀬さんのことを僕はそこまで知らないし、広瀬さんも僕のことを知らないと思う。だから、いくつか約束事を決めておいた方がいいと思うんだ」

「はい」

私も水に口を付けた。

「僕は君に住み込みでぷーすけの世話を頼んでる身だから、生活必需品は家にあるものは全て自由に使ってもらって構わないよ。そして足りないものは全て用意するから君が負担することはない。僕はこの通り仕事でほとんど家を空けることが多いから、食事は広瀬さんが好きな時に好きなものを食べて。一緒に食べれそうな時は連絡するよ」

一緒に食べれるときもあるんだ。つい自分の口元が緩んでしまったのに気づいて慌てて引き締める。

「あと、一番大事なことなんだけど。自分の中にある気持ちは全て伝えてほしいんだ。何か気になること、不満なこと、こうしてほしいこと、なんでもいい。僕もそうさせてもらうつもりだから。その方がお互いのことがよくわかるし、遠慮はいらない。なかなか顔を合わす機会がなければ、メモでもLINEでも使って」

自分の中にある気持ち。
そんなこと、全部言えない。

「広瀬さんは、この間変わりたいって言ってただろう?自分の殻を破る練習だと思って何でも言ってくれたらいいよ。僕はこう見えて結構精神的にはずぶとい人間だから大丈夫」

あまりに優しく微笑む彼の目に吸い込まれそうになる。

私はこくんと黙ったまま頷いた。

「さ、食べよう」

そう言った彼は前菜にフォークをつける。

どうしてこんなにも優しくしてくれるのかな。
私みたいな人間に。

って、きっとこういう気持ちも間宮さんに伝えた方がいいんだろうけど。

「いただきます」

私は両手を合わせ、テーブルのフォークを手に取った。

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