甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
「おお、おかえり!」

そう言って真っ先に出迎えてくれたのは父だった。

丸顔で白髪七三わけの父は、しばらく見ない間にまた少し太ったように見える。

半袖の黒いポロシャツのお腹が、妊婦さんみたいにポコンと突き出ていた。

父は、私を目の中に入れても痛くないくらいかわいがっているゆえに私に厳しい。

やみくもに厳しい母とは違うから、一人暮らしのことも父がなんとか許してくれたから認めてもらえたようなものだった。

今回のことも、きっと父がカギを握ってる。

ただ、今回は男性と同居っていう一番父も認めたくない事実だからどう話をもっていけばいいのか。

港から直行したから、ゆっくり考える時間もないまま来てしまった。

父に促されるまま居間に向かう。

「お母さん、ただいま」

キッチンで私に背を向けて洗い物をしている母に挨拶をする。

「おかえり」

こちらに顔を向けずに母が言った。

背中からもイライラしている様子が手に取るようにわかる。

父の方を見たら、首をすくめて苦笑していた。

「まぁ座りなさい」

父がダイニングテーブルの椅子に先に腰をかける。

私も頷いて父の前に座った。


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