桜の木に寄り添う

言葉にしなくても

病室へ戻り、またおばぁちゃんの手を握る。

「 ありがとう…… 」

「 おばぁちゃん!? 」

 おばぁちゃんは、ゆっくりと目を開ける。

「 なつみちゃん、ありがとう。私は大丈夫よ。なつみちゃんがいてくれたおかげよ 」

「 よかった!眠れてなかったの? 」

「 私はもう年でしょ。不安な事が多いのよ。でも大丈夫。なつみちゃん、私がもう少し元気になったら、あのアトリエに一緒に来てくれる? 」

「 うん 」

「 おじいさんが亡くなってから、なんとなくあのアトリエに行ってなかったの。思い出してしまうから。でもなつみちゃんのおかげで前に進まなきゃと思ったのよ 」

 おばぁちゃんの話を聞いていると胸が張り裂けそうな気持ちになってしまいそうだった。

 おばぁちゃんの辛い気持ち。
 今の私には物凄く伝わってくるものがあった。

 私もあのアトリエに連れて行ってもらいたい。
 おじいさんがどんな人だったのか。
 何か分かるかもしれないから。

「 おばぁちゃんもずっと苦しかったんだね。今先生くるからね 」

「 もう大丈夫ですよ!すぐに退院できます。ですがもう少し休みましょうか 」

 先生はそう言うと病室を出て行った。

「 ありがとうございます 」

「 おばぁちゃん、今のうちにゆっくり休もうね 」

 何事も無くて本当に良かった。
 せっかく仲良くなったおばぁちゃん。
 私のおばぁちゃんみたいな、私にとって特別な人だから。

 沢山の相談事をまた聞いてもらいたいし、おばぁちゃんの話もこれからも聞いていたいから。

「 おばぁちゃん、私ね……絵が上手な彼とは離れようと思ってるんだ 」

 おばぁちゃんは、寂しそうな表情をして私を見つめていた。

 今は何も言わなくても、私の気持ちを分かっているよ。
 そんな風な表情にも見えた。

 きっと全て言葉にしなくても、おばぁちゃんには伝わっているのだと思った瞬間だった。
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