桜の木に寄り添う

意味のある時間

上重さんの言葉は、何度も何度も私の心に響いてくる。
 そして、穏やかな気持ちにさせてくれる。
 私の涙は、隠しきれないほど溢れてしまっていた。

「 今日は、お店にいていいんだからね?ゆっくり考える時間も大切なんだから 」

「 はい、ありがとうございます 」

 お店の中は、アロマオイルの香りで漂っている。
 私にとって、大好きな落ち着く香り。

 私が求めるもの……。
 それは……いったい。

 私は、どうしたいんだろうか。
 自分で自分の事が分からなくなってしまうくらいになってしまっていた。

 人の心の中は誰にも見えない。
 何を考えているかわかる上重さんは、やっぱりかっこいい大人。

 私は自分の事もちゃんと分かっていなかった。

 このままでいいわけがない。
 逃げてきた自分にちゃんと、お別れをしなければいけない。
 かっこいい大人になる為に……。

「 上重さん、やっぱりかっこいいです 」

「 そんな事ないのよ。私からしたら、なっちゃんキラキラしていてかっこいいわよ。まだまだこれから素敵な事があるんだから。なっちゃん、マッサージありがとう 」

 そう言い、上重さんはお店を出ていった。

 素敵な事か……。

 沢山の事や、今まで出会った人達。
 全てに感謝の気持ちが、芽生え始めていた。

「 ありがとう 」

 私は、小さな声でそう口にした。
 辛いことばかりを考えていたって前には進めないんだよね。

 私は上重さんの言葉を思い返しながら目を瞑っていた。
 お店の中は、静かで外の音も何も聞こえない。

 今のこの時間は、私にとってとても意味のある時間だった。

< 112 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop