桜の木に寄り添う

約束の時間

今日の夜……約束した桜の木で逢える。

 心臓がどうにかなりそうなくらいに、ドキドキしている。
 昨日も眠れずに、ずっと考えていた。
 会ったら何を話そう、どんな顔をして会えばいいか、そんな事ばかり考えてしまっていた。

 昔みたいに話せる自信はなかった。
 大人になると、なかなか自分の思いなど素直に表せなくなる。

 私は、ゆっくりゆっくりと……車いすを進めた。

 急いで逢いに来たと思われたくもない。
 そんな小さなプライドと、余裕ある気持ちを見せつけたかったのかもしれない。


 私が行くと彼はもう来ていた。

「 久しぶり!覚えててくれたんだね!」

「 うん、覚えてるよ。昔、よく遊んでたもんね 」

 しばらく昔の話を懐かしんで、たわいもない話をした。
 聞きたかったことなんて、たいして聞けないもんだね。
 私は、ちゃんと言えない自分が腹立たしかった。



 彼はとても優しかった。
 そして、こんな私にこう言ってくれたんだ。

「 もし良かったら。また会おう!」

 嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。

 素直に嬉しくて、子供の頃に戻ったような時間だった。

 また会う約束した。

 手紙も送り合うことに。

 楽しい時間はあっという間に過ぎていった。

 私が車椅子になってしまった事に、彼は一言も触れなかった。

 ありがとう。私はこんなに楽しい時間が過ごせた事が嬉しかった。

 ーー

 部屋に戻り、すぐにメールをした。

『今日は来てくれてありがとう。楽しかったです。』

『今度、なつみが言ってたアロマオイルちょうだいね!』

 人は人との繋がりを求めてるのかな。

 連絡も会うこともできなかった私達。

 それでもまた会う事ができた。

 安西さんには何も伝えてないけど、罪悪感は全くなかった。

 今度、安西さんに会ったら、伝えようと思っていた。
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