桜の木に寄り添う

誰も知らない過去

 ふと時々見せる、寂しい顔になつみは気づいていた。
 そんなよっちゃんにも、誰も知らない過去があった。

 僕は、みんなから、よっちゃんと呼ばれている。

 そんな僕にも、みんなには、色々隠していることがある。
 僕は、商店の息子として生きてきた。
 でも、実は……養子だった。

 僕の両親は、子供ができなかった。
 施設いた赤ちゃんだった僕を、自分の子供みたいに。
 今の時代では、そんなに珍しい事ではないのかもしれない。

 でも、みんなに話す事が今だにできていない。

 誰かにこの事を話してしまうと、育ててくれた両親に申し訳ない気持ちになってしまうからだ。

 そして、大好きな、なつにも……。
 打ち明ける事はできない。

 きっとこの先も……。

 僕にとっては、重要な事だから。

 だから、みんなを笑顔にする事で、僕の気持ちが少しだけ軽くなった。

 お調子者でもいい。

 嫌われたくないから、僕はきっと、そうしているのだろう。

 そんな両親に感謝してはいるが、最近はうまくいっていなかった。

 僕は案外、自分勝手なのかもしれない。

 なつの事は、昔から好きだった。

 子供の頃、桜の木のそばでヒロキと楽しそうに遊んでいたのも知っている。

 嫉妬した時期もあったが、そんな事をしても自分が苦しくなるだけだった。
 かっこ悪い自分をこれ以上見せたくなかった。

 好きな気持ちをずっと胸の中にしまっておくつもりだった。
 他の人を好きになれればいいのに。
 どうして、それができないんだろう。
 きっと、僕が思っている以上に簡単な事だと思う。

 幸せにしてあげられる自信だってない。


 僕は、ずっとあの町にいることになるだろう。

 これからは、なつみには幸せになって欲しいと一番に願っている。

 いつまでも、そばにいれたら。

 それだけでいいと思っていた。

 それだけでいいと……。
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