桜の木に寄り添う

沢山の記憶

後ろを振り返ることもなく、スタスタと歩いて行ってしまったヒロキくんの表情はどこか寂しそうにも見えた。

 そんなヒロキくんの表情を誰も気づいていないだろう。

 私の勘違いだったらいいなと思いながら、私はヒロキくんが描いてくれた一枚の絵を眺めることにした。

 その絵は、どこか繊細で心が癒されるような素敵な絵だった。

 そこに描かれていたのは…桜の木だった。

 私が寂しくならないようにこの絵を描いてくれたんだよね?

 桜の木と一緒に描かれていたのは、小さな男の子と女の子だった。

 きっと幼い時の私達だろう。

 小さな時の想い出が沢山詰まっている事を表しているような気がした。

 それでも私達には、空白の時間の方がまだまだ多い。
 短時間でこんな素晴らしい絵を描くことすら全然知らなかった。

 この絵を見ていると、私達の想い出は幼い時の記憶で止まっているんだなという不安もあった。

 口数の少ないヒロキくんだから、余計にそう思ってしまうのかもしれない。

 絵を眺めている私にリエが話しかけてきた。

「 なつ!お土産買えたの? 」

「 時間がなくて買えてないや 」

「 そうだと思って買っておいたよ!ほら! 」

 リエが差し出してくれたお土産は、昔から私が大好きなお菓子だった。

「 わぁ!これ私の大好きなやつ! 」

「 多めに買っておいたから食べれるよ! 」

「 ありがとう! 」

 リエは、いつも何も考えていないように振舞っているけれど、心の中では私以上に私の事を思ってくれいるんだろう。

 駅に向かう車の中、私はみんなの想いを感じさせられる時間になっていた。
< 79 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop