桜の木に寄り添う

アトリエ

次の朝、私はヒロキくんが描いてくれた絵を持ってあのおばあさんのお店へ向かっていた。

 カランカラン

「 すみません! 」

「 はいよ 」

 おばあさんは、少し顔色が悪いような感じでゆったりとした足取りで出てきてくれた。

「 私、昨日お話した絵を持って来たんです。見ていただけますか? 」

「 あらまぁ、こんな早くに。ありがとう。見せてくれるのね 」

 私はすぐに絵をカバンから取り出し、おばあさんに渡した。

 おばあさんは何故だか、一瞬少し驚いたようにも見えた。

「 あら。素敵だねぇ。この小さい子供たちはあなたかしら? 」

「 はい。家のすぐ側に大きな桜の木があるんです。そこで小さい頃よく遊んでいて…… 」

「 そうだったんだねぇ 」

「 あのう。昨日書かれた住所、前に一度行った事があります。お花畑の所ですよね? 」

「 そうなの。あの小屋を知っていたんだねぇ。私はあそこに住んでるわけじゃないけど、おじいさんのアトリエがあるのよ。今度一緒に見に行かない?」

「 はい、是非見てみたいです 」

 その話をした途端、おばあさんの目に涙が浮かんでいた。

「 あら、年取ると涙脆くて。ごめんなさいね 」

「 いえ。もし良ければ、絵を見せて貰えませんか? 」

 そう私が言うと、おばあさんは奥へと進んで行った。
 おじいさんの絵……どんな絵なんだろう。

 おばあさんがずっと大切にしているアトリエにもきっと素敵な絵が飾られているのだろう。

 数分後……おばあさんは、何枚かの手に持ち戻ってきた。

「 これなの 」

 おばあさんが見せてくれた絵……

 そこには……。

 お花畑のような場所で遊ぶ女の子が載っていた。

「 これね。私らしいのよ。おじいさん、シャイな人だからきっと声もかけられなかったのね。あなたが見せてくれた絵にも似てるわね 」

 自分達が子供の頃の絵……本当に少し似ているような気もする。

 二枚目の絵は、大人の笑顔の女性だった。

 おじいさんが、おばあさんをどんなに愛していたか。絵から物凄く伝わってくるものがある。

「 おじいさん、おばあさんの事。愛していたんですね 」

 そう私が言うと、おばあさんは優しい表情をして絵を見つめていた。

「 たまにね。おじいさんに会いたくなるのよ。だからあのアトリエはそのままにしているの。私達が出会った場所だから 」

 おばあさんのその言葉に、私は羨ましいと思えた。

 ずっと想って大切にできる場所。

 私もいつかこんな風に想えたら……おじいさんとおばあさんのように。

 ずっと想い続ける事は簡単な事では無いけれど、すごく素敵な関係で聞いているだけで私の心は和んでいく。

 私達に似ているようにも思えた……
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