Fake!!(フェイク)~漆黒の魔導師と呪われた乙女の物語~
ジャリッ

想像通りの…苦味と甘味…溶けきっていない脂肪の不快な粘り気が口中に広がる。

「ねぇ、どう?美味しい?」

不安げな声が頭上から降ってきた。
俺は、トーストを皿に戻し、やっとの思いで口の中のモノを飲み込むと、上目遣いでエドガーを見上げた。

「あのなー、エドガー?」

俺は、一言文句を言ってやろうと口を開いた。
だが、彼女の不自然な立ち姿…いつもは口よりも雄弁な表現者となるはずのエドガーの両手が、しっかりと後ろに回されていることに気がつき、吐き出しそうになっていた悪態を飲み込んだ。


「どうした?後ろに何を隠している?」

「えっ、別に!何も…何にも隠してないよ。」

「嘘つけ!」

両手を背に回したまま、逃げ腰になるエドガーを、俺はテーブルを乗り越え捕まえると、抗う彼女を押さえつけ、両手を無理矢理引き出した。


「これは…。」

俺は言葉を失った。

彼女の両手は、酷い火傷を負っていた。
掌は赤く腫れ上がり、あちこちに水膨れが出来ている。
エドガーは、何とか俺から逃れようと、体を捩っていたが、それを諦め大人しくなった。

「ロニィに美味しいトーストを食べさせたくて…何度も挑戦してみたんだけど失敗ばかりで…。あれが一番まともな出来だったから…だから…。」

エドガーは、半泣きになりながらそれだけ言うと顔を伏せた。

(馬鹿だな…。直接焚き火に手を突っ込む奴があるかよ…。)

俺は、彼女を静かに草の上に座らせると、爛れた両手を掴んだまま治癒魔法の呪文を唱えた。
微弱ながら、癒やしの気がエドガーの両手を包むと、掌の腫れが引いていった。
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