偽装同棲始めました―どうして地味子の私を好きになってくれないの?
急いで小走りに帰る。篠原さんよりも早くマンションにたどり着いていなければならない。息が切れた。後ろを振り返るけど、誰もいない。

エレベーターに乗って、部屋の入口まで来てほっとした。

まさか先に帰っていることはないだろう。静かに玄関ドアを開けると、篠原さんの靴が脱いであった。先に帰っていた。まずい! 静かに玄関ドアを閉めたつもりだけど、音が響いた。

急いで、靴を仕舞って、部屋に走って入る。後ろの方から「おかえり、おやすみ」と声をかけられた。びっくりした。私の姿を見られた? 大丈夫だと思う。篠原さんの部屋のドアは閉まっていたから。

部屋のうち鍵をかけて、ほっとした。先に帰っているとは思わなかった。すぐにお風呂に入って化粧を落とした。疲れた! でもお風呂は気持ちいい。心地よい疲労。お風呂で眠りそうになる。

それにしても思いがけないことばかりの一日だった。まさか、篠原さんと合コンで鉢合せするなんて想像もしなかった。幹事が山本さんであったので悪い予感はしていた。

でも篠原さんは間違いなく私に関心を持った。地味ないつもの私に持つ関心とは別の女性としての関心だと思う。見た目でこうも接し方を違えるものなのか? 

今日の私は地味なスタイルになる前の着飾った私だった。コンタクトをして、髪形を変えたし、お化粧も工夫していたので、結構可愛かったと思う。でも今の私にとって、絵里香は仮の姿でしかない。

◆ ◆ ◆
翌朝は目が覚めるともうお昼に近かった。疲れていたこともあってぐっすり眠れた。合コンは疲れたけれども結構ストレスの解消になったと思う。

篠原さんもお昼頃まで寝ていた。彼が起きたところで私は掃除と洗濯を始めた。

◆ ◆ ◆
月曜日の昼休みに亜紀から携帯に電話が入った。

「結衣どうだった? 彼より早く帰れた?」

「急いで帰ったけどもう帰って来ていた。でも、そっと部屋に入ったからバレなかった」

「ごめんね、無理に参加してもらって、山本さんがあなたの会社の人とは知らなかったの。大学の友人の紹介だったから」

「でも結構スリルがあってストレス解消にもなったわ、ありがとう」
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