身ごもり政略結婚

『麻井です。奥さま、どうされました?』

「破水してしまいました。これからタクシーで病院に向かいます」

『わかりました。専務にはすぐにお伝えします。大丈夫ですか?』

「はい」


威勢よく『はい』と言いきったものの、本当は不安でいっぱいだ。

どれだけ頭の中で予行演習をしても、実際の出産がどう進むかなんて誰にもわからない。


私は電話を切ったあと、用意してあったバスタオルなどを持ち、家を出た。


「大雅さん……」


心細くて彼の名前を呼んでしまう。

こうなる可能性もあるので実家に帰ることも考えたが、父では余計にパニックになりそうでやめた。
それに、大雅さんがそばにいてくれるだけで心が落ち着く。


十分ほどで滑り込んできたタクシーの運転手さんがとても親切で助かった。
私からタオルを受け取り座席に敷いたあと、体まで支えてくれた。


病院に到着すると、すぐに助産師さんが車いすで私を運んでくれる。
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