ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
14. 追跡~ライアンside

「Excuse me!」

前方を広がって歩く3人連れの女性へイライラしながら声をかけて、できたわずかな隙間をすり抜けた。
途端。
「きゃあっ!」
「御曹司じゃないっ! カメラカメラっ!」

大げさな声が上がり、口の中で舌打ちする。

自分の容姿が忌々しい。日本人ばかりの中じゃ、目立つことこの上なく、尾行には恐ろしく向いていない。

すれ違う人ごとに声をかけられ、ベタベタと触られ、サインを強請られ。
うんざりしながら、また視線をやる。
幸いなんとか、まだ帽子は見えている。
相手は、僕に全く気づいてないらしい。その足取りには余裕がある。

ここから声をかけてもいいけど……周りに人が多すぎるな。
もう少し、人波が途切れてからだ。

再び人の間を抜けようと、身体をひねる――
背中に走った鈍い痛みに顔をしかめつつ、足を速めた。

こんなの、彼女の心の痛みに比べたら、痛みの内に入らない。


――っ……ううん、……ちがっ……やだ、泣くつもりなんて、なっ……

もうあんな風に泣かせたくない。
一刻も早くすべてをクリアにして、あの愛しい人をまた、この腕に抱く。

ギュッとこぶしを握りこんで……身体の奥に燻る熱に気づき、苦く笑う。
彼女に触れるのが、久しぶりだったせいだろう。ずっと我慢、してたから。

見失わないよう、その姿を視界に捉えながら、僕の思考はすべての原因となったあの夜へと戻っていった――……

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