ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
3. 不穏

ライアンが、おかしい。


コーヒー(もちろんカフェインレスだ)のカップを手の中で揺らし、たぷんと揺れる液体をじっと見つめた。

平日の昼下がり。
デスクワークに区切りをつけ、遅めのランチをとるため入ったカフェは、
それほどお客も多くなく、まったりとした空気が流れていて。
考え事にはちょうどいい。

軽めのサンドイッチを食べ終わり、吐息をついて。
そしてまた、同じ記憶をたどってしまう。

この前の日曜日、奈央さんたちと一緒の帰り道。
あれは確かに、ライアンだった、と思う。

隣にいた女性は……綺麗な人だった。

中東系、って言っていいのかな。
浅黒い肌に、顔のパーツが一つ一つ大きくて、アラビアンナイトに登場しそうな、ミステリアスな雰囲気の美人。

彼女が、来日したっていう友達なんだろう。

ただの友達……のはずなのに。
お似合いだったツーショットを思い出すたび、心がざわついて仕方ない。

彼がそれについて何も触れてくれない、っていうのもあると思う。

あの日の夜、彼が家に帰ってきたこと、そもそも気づかなかったのよね。
しばらく待ってたんだけど、眠くてたまらなくて、いつのまにかギブアップしてたらしく……
朝起きたら、横に彼が寝ていて。

熟睡してるところを起こすのも忍びなくて、家を出た。
会社に着いて確認したら、彼からメッセージが届いてた。

――おはよう。昨日はごめんね。仕事、無理しないように。

以上、終わり。
それだけよ?

何か他に、言うことはないの? って、ツッコんじゃったくらい。

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