ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】

か細い悲鳴のような声が聞こえて、振り返った私の目に飛び込んできたのは、杖をついたおばあさん。

オロオロと手を伸ばしてて……

きんちゃく袋が地面に落ち、中のものが飛び出しちゃったんだ。
駆け寄って、「拾いますね」とお手伝いした。

お財布やパスケース、ハンカチやティッシュ、のど飴がたくさん……
もろもろを袋に戻して渡すと、「すみませんねえ」と、おばあさんは曲がった腰をさらに曲げてお礼を言った。

「ああ、よかった。なかなか、身体がままならないもので……ほんとに助かりました」
「どちらへ行かれるんですか? 診察ですか?」
「いえいえ、もう終わって帰るところで。タクシー乗り場へ」
「じゃあ、一緒に行きましょう。私も行きますから」
「そうですか? まあまあ、すみませんねえ」

杖を持っていない方の腕を支えて、一緒にのんびりと歩き出す。

妊婦さんなの、まあ楽しみねえ。
あなた、顔がキリッとしてるから、きっと男の子よ。
もうちょっと食べた方がいいわね。痩せすぎよ。
私が娘を生んだ時はね、散々姑にうるさく言われたものよ……

話す相手を見つけてうれしいのか、おばあさんの口は止まらない。
大先輩に口答えもできないしなぁ、とおとなしく耳を傾けつつ。

桜並木を見上げた。
ほんと、キレイ。

今夜は遅くなってもいいから、ライアンの帰りを待ってみよう。
そして、お花見に誘うんだ。

春めいた気分のまま、空車タクシーが待ち構える乗り場へたどり着く――その時だった。

< 45 / 394 >

この作品をシェア

pagetop