心をなくした女神
太陽と月
入学式が終わり1週間。

友達作りだとか勉強だとか、学生にとっては落ち着いていく頃。

1年の1組と2組には目立った人物がいる。

そう学校内では噂になっていた。

それもそうだ。




「ごめーん、今日の放課後パスな!」

「えーっ!笹野くん来るの楽しみにしてたのに!」

「つまんないよっ」



1年1組の廊下には、1人の男を囲む女の子たち。いわゆるバッファローの群れ。

笹野宏太(ささのこうた)。

1年の中でずば抜けてイケメンだと毎日女子に騒がれている。

高身長、美形、秀才、スポーツマン。

すべてにおいて完璧な存在。




「うわ、今日も可愛いなあの子」

「誰か声かけろよ」

「無理だろ、どうやって近づくんだよ!」




1年2組の廊下に群れはない。

誰も声をかけようとしてこない。

それは私、渡瀬伊吹(わたせいぶき)。

長くて細い茶髪はツインテール、細くて華奢な体型。

学校一の美少女だと知られているらしい。

だけど清楚なイメージと違って私は、あぐらをかいて廊下に1人座っていた。




「渡瀬さん、俺とメアド交換しない?」




話をかけてきたのは2年生らしき人。

私を上から見下ろして、にこりと微笑んでいた。

じっと顔を見つめると、先輩は照れるかのように顔を逸らす。

ほらね、みんな私の顔ばかり。




「友達でもないのになんで交換しなきゃいけないの?容量の無駄」

「え?」




マヌケな声を出した先輩はみるみる顔が赤くなっていき、急ぎ足でどこかへ行ってしまった。

こんなのはもう、何回目だろうか。

周りから見たら冷たい態度。

他人に興味が無いから、人との距離は縮めようとしない。したくない。




「渡瀬さんやばいね」

「ほんと。愛想ないよね」




にこりとも笑わない私にはいくつものあだ名があった。

人形、マネキン、肖像画、仏など。

色々言われるのは慣れてる。

そう、慣れてるの。
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