8月8日の約束…

半分、貰うよ

「地獄少女?」
遥香は悠理を見た。

「うん。」
悠理は頷いた。

「アニオタか何か?
なら私もアニオタだから、気が合うかもよ。」
と、遥香は言った。

「ううん。」
悠理は、首を横に振って、
「━━違うの…。」
と続けた。

「違う?」
遥香は首を傾げた。

「私と関わった人は死ぬ…。
関わった人を不幸にする女…。
地獄の使いみたいな少女…。
地獄少女…。
前の学校で、そう言われていたの…。」
と、悠理は呟くように答えた。

「……。」
遥香は、黙って悠理を見ていた。

「だから…。」
悠理は遥香を見つめて、
「私とは…友達にならない方が…いいよ…。
私…呪われてるから…。」
と言った。

「……。」
遥香は少し考えてから、
「半分、貰ってあげる。」
と言った。

「?」
悠理には、意味が分からなかった。

「あなたが本当に呪われてるなら、その呪い、私が半分貰ってあげる。」
と、遥香は言った。

「え?」
悠理は遥香を見た。

「あ、半分じゃ不満?
なら、全部貰うよ。」
と、遥香は答えた。

「そうじゃなくて…。」
と悠理は言った。

「ん?」
と遥香は悠理を見た。

「どうして…?
初対面の私なんかの為に…?」
と、悠理は訊いた。

「上手く説明は出来ないんだけど、あなたと友達になりたいの。」
と、遥香は答えた。

「……。」
悠理は、遥香を見つめた。

「そんな理由じゃ駄目かな?」
と、遥香は訊いた。

「━━いいの…?」
悠理は少し間をおいて、
「私なんかで…いいの…?」
と続けた。

「あなた“なんか”じゃなくて…」
遥香は真っ直ぐに悠理を見つめて、
「あなた“が”いいの。」
と言った。

━━悠理は戸惑った。
自分と友達になんかなったら、この子まで不幸にしてしまうのではないか?

でも、久し振りに触れた同じ年頃の少女の優しさに、凍りついた悠理の心の扉が開こうとしていた。

「あ…あり…がとう…。」
悠理は頭を下げた。

「悠理って呼んでもいい?」
と遥香が訊いた。

「うん。」
悠理は頷いた。

「私の事も遥香でいいからね。」
と、遥香は言った。

「うん。」
悠理は答えた。

「じゃあ、携帯の番号交換しない?」
と、遥香が言った。

「うん、いいよ。」
と、悠理は答えた。

そして二人は携帯の番号を交換した。

「私さぁ、誕生日が夏休み中だから、いつも宿題に追われながら誕生日迎えてるんだ…。」
ふと、遥香は言った。

「ホントに?
私の誕生日も夏休み中だよ。」
と、悠理は答えた。

「そうなの?
ちなみに私の誕生日は8月8日だよ。」
と、遥香は言った。

「!?」
悠理は目を丸くして、
「私も…8月…8日…。」
と言った。

「嘘?
同じ誕生日なの?
2001年の8月…8日?」
遥香も驚きを隠せない。

「うん。」
悠理は頷いた。

「凄い、奇跡みたいだね。」
と、遥香は言った。

「そうだね。」
と悠理も答えた。

━━その時、悠理の顔が一瞬微笑んだ。

「可愛い!!」
遥香は、思わず声を上げた。

「え?」
悠理には意味が分からなかった。

「悠理の笑顔、すごく可愛い!!」
と、遥香は言った。

「私の…笑顔が…?」
と、悠理は訊いた。

「うん、見てるこっちまで幸せな気分になれる素敵な笑顔だね。」
と、遥香は笑顔で答えた。

「ありが…とう…。」
悠理は言った。

━━悠理は照れくさかった。
そんなにストレートに笑顔を褒められたのは初めてだった。

━━悠理には遥香の笑顔の方が眩しかった。

よく、素敵な笑顔の事を《太陽のような笑顔》などと言ったりするが、その言葉は遥香の為に存在するのではと思ってしまう程、遥香の笑顔は輝いていた。

悠理の心は、遥香の笑顔で満たされた。

━━同時に、自分のせいで遥香から笑顔を奪ってしまうのではないかと、不安になった…。

━━遥香は、悠理が《地獄少女》と呼ばれていた事について、悠理が答えた後は、それ以上は何も訊かなかった。

「遥香…。」
悠理は、遥香の方を見た。

「何?」
遥香も悠理を見た。

「私が《地獄少女》って呼ばれてた事、それ以上は訊いてこないんだね…。
怖く…ないの?」
悠理は、不安そうに訊いた。

「うん、怖くないよ。」
遥香は悠理を見つめて、
「例え本当に悠理が地獄からの使いだとしても、私には関係ない。」
と続けた。

「え?」
悠理も遥香を見つめ返した。

「地獄から来ようが天国から来ようが、悠理は悠理…。
私の大切な友達。」
と、遥香は言った。

「ありがとう…遥香…。」
呟くように悠理は言った。

それから二人は、色々な話題で盛り上がった…。
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