8月8日の約束…

夏休み

━━2018年7月20日。

今日は、日向高校の終業式である。

「もぅ…最悪…。」
紗耶がボヤいた。
どうやら成績が悪かったようだ。

「ウチもテストで失敗したからなぁ…」
さくらが言った。

「━━私は失敗した事がない。」
と、呟くように悠理が言った。

「!?」
「!?」
紗耶とさくらは悠理を見た。

それに気付いた悠理は、
「あ、ごめん。」
と謝ってから、
「私は失敗したことがない。
ただ、1万通りの、うまく行かない方法を見つけただけである。
トーマス・エジソンの名言。」
と答えた。

「おぉ」
紗耶は感心している。

「へぇ、いい事言うねぇ、トーマス。」
と、さくらも感心している。

「さくら、言い方。
相場はエジソンでしょ。
何でトーマスの方を取るかなぁ…。
トーマスって、顔面機関車じゃん。」
と紗耶が言った。

「紗耶こそ、言い方!!」
と、さくらが突っ込んだ。

━━1984年にイギリスで放送が開始され、1990年から日本でも放送が始まった、歴史あるアニメも、紗耶達からは随分な言われようである。

そして、三人は笑い出した。

━━悠理は思った。
(こんな風に、同級生と話せるようになったのも、遥香のおかげ…)


━━夏休みに入って少しした頃…。

悠理の携帯に、遥香から着信があった。

「もしもし。」
悠理が電話に出る。

『あ、悠理、遥香だけど…。』
と遥香が言った。

「どうしたの?」
悠理が訊いた。

『実は8月8日、都合悪くなっちゃったんだ…。』
気まずそうに、遥香が言った。

「そうなんだ、じゃあ、前後にずらす?」
悠理が訊いた。

『その頃、ちょっとお姉ちゃん達と旅行に行く事になっちゃったから、しばらく会えないかも…。』
と、遥香が言った。

「旅行かぁ、いいね。
何処に行くの?」
悠理が訊いた。

『場所?
…岡山だよ…。』
と、遥香が答えた。

「そっかぁ、楽しんで来てね。」
悠理が言った。

『ありがとう…。
お土産、楽しみにしててね…。』
と、遥香が言った。


━━それからしばらくして、遥香と連絡が取れなくなった。

電話をかけても出ないし、メールの返信もない…。

悠理は心配になっていた…。


━━2018年8月16日。
遥香から悠理の携帯に着信があった。

『ごめんね、全然連絡出来なくて…。』
遥香は謝った。

「私は平気だけど、何かあったの?」
と、悠理は訊いた。

『携帯の調子が悪くなっちゃったみたいで、メールや通話が出来なくなってたの…。』
と、遥香が答えた。

「そうだったんだ…。
急に連絡が途絶えたから心配しちゃったよ…。」
と、悠理も一安心したようだ。

『ごめん、ごめん…。
あ、お土産渡したいんだけど、会えない?』
と、遥香が訊いた。

「うん、いいよ。」
と、悠理が答える。

『じゃ、18日の土曜日にしない?
誕生日の10日後って事で?』
と、遥香が言った。

「うん、分かった。」
悠理は答えた。


━━2018年8月18日。
二人は、例の公園で会った。

「はい、お土産。」
と言って、遥香は箱を手渡した。

「ありがとう。」
受け取って、
「開けてもいい?」
悠理が訊いた。

「うん、でもちょっと、好き嫌いがあるやつかも…。」
と、遥香が言った。

━━中身は《でざあととまと》と書いてある、ゼリーのようなものだった。

「嬉しい、私、トマト大好きなの。」
と、悠理は喜んだ。

「良かった。」
遥香も笑顔になる。

━━《でざあととまと》
岡山県青果物販売株式会社が販売しているゼリーで、岡山県産の桃太郎トマトをまるごと一個ゼリーに閉じ込めた、贅沢な一品である。

「岡山、楽しかった?」
と、悠理が訊いた。

「うん。」
遥香は頷いた。


二人は、他愛もない話で盛り上がった…。
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