自分より大切なもの



 窓から流れ込んでくる風は、冬の冷たい風。ぽっかりと穴が空いてしまった椿の心を、更に冷たく冷やしてゆく。
せめて幾つかの星が輝いていれば、彼女の心に僅かな光を灯しただろう……。だがその日の夜空には薄く雲がかかり、彼女の心を救いはしなかった。




佐古
「……そんなに嫌がるならもういいから、今日は帰ってゆっくり寝ろ。」




 椿の家の前に車を止め、佐古はそう言った。




椿
「うん、ありがとう。」



佐古
「明日、明後日は補習休みにするから、体休めなさい。」



椿
「……はい。」



佐古
「じゃあな。」




 佐古が助手席の窓を閉めようとした時……。




椿
「……あ、あのさ。」



佐古
「………?」



椿
「電話……してもいい?……迷惑じゃなければ……。」





 佐古は真剣な顔をして、こう言った。





佐古
「迷惑だから絶対にやめろ。」



椿
「…………ぇえ??」



佐古
「っハっハっハ………!冗談だよ、いつでもしてこい(笑)………ぇえ??…だって……ウケる(笑)」




 しばらくの間ツボから抜け出せない佐古を見て、椿が車に近寄った。




佐古
「………………?」






   バコッーーー!!!






 椿は外側から思いっきり助手席のドア下を蹴り飛ばした。車体にうっすらと黒い汚れが残る。




佐古
「ぅわっ!!てめっ!………なにしやがんだこのバカ野郎!」



椿
「バカはてめぇだこのセクハラ教師が!!」



佐古
「あ?俺がいつお前にセクハラしたんだよコラ、言ってみろ。」



椿
「お前のその存在自体がセクハラなんだよ。」



佐古
「てめ……言わしておけば……」



椿
「いいじゃん、そのポンコツ車あんたにお似合いだよ、さいなら!」




 椿はそう言い捨てると、さっさと玄関の中へと消えていった。




佐古
「何なんだあのクソガキ!」




 佐古は不機嫌なままアクセルを踏み込んだ。靴も脱がずに玄関先に立ち尽くす椿は、自分の行動を深く後悔した。
 




・・・やっちまった………。






< 53 / 66 >

この作品をシェア

pagetop