苦くて甘い
苦くて甘い


あ、と目が合った瞬間後悔した。

学校の裏の私の秘密の場所。
誰も知らない私の場所。

そこで男の子が一人、白くて棒状のものを口にくわえていた。

最悪だ。

面倒なことに巻き込まれたくはない。
だから先生にチクる、ということはまずしないのだけれど、それを相手方に言って信じるかどうか。

まぁ、まず信じないだろうな。

ってことは、私の命が危ない。
タバコを吸ってるという事実を隠すために私に口止めして弱みを握られるのかな。

それはやだな。

もし仮に先生に言ったとしても、その後の対応がめんどくさい。

とりあえず、どっちに転んでもめんどくさいものはめんどくさいんだ。







「…ねぇ」

男の子が口を開いて、私のほうに来る。

やだな、と思いながらもこれを無視したら余計にめんどくさい事になりそう。

「なんですか」

無視できるはずもないので答えた。
怖がってるなんて思われたくないから、強気で言ってみる。

「今の見てないよね?




同じクラスの高円 一花ちゃん」

ぱっと顔を上げて、相手の顔を見る。
その瞬間に今度は冷や汗をかいた。
あぁ、神様はなんて酷いんだろう。

目の前には学年一かっこよく優しいと言われている私のクラスメイト、中村 光輝が立っていた。



最悪だ。最悪の二乗だ。

さっきは私の目が悪いせいで、黒髪の男の子ってことしかわからなかったけど。
同じクラスのしかも優等生。

タバコなんてやるはずがない男の子。

そして、私のちょっと気になってる男の子。

「え、中村…くん?」

信じ難い事実を目の前に混乱しか出てこない。
え、なんで?
なんで、中村くんがタバコ吸ってるの?

「そうだよ、中村だよ。ところで高円さん。さっき見た事誰にも言わないでね。」

「え、なんで…」

「なんでって、バレたくないじゃん。」

いや、そりゃバレたら先生に怒られるだけじゃ済まないんだけど。
そんなことする人じゃないと思ってた。

「そうだけど…っ」

「そうだけど、何?」

「…っ、そうだけど、中村くんがそんなことするって思ってなかった。」

ちょっとだけ、いやかなり、悲しい。
信じてた人がタバコなんかやってて。
それを平気でいるなんて。

それでも嫌いになれない私が憎い。

「んー、まぁ俺も色々あるんだよ。それより、高円さんがバラさない、なんてわかんないよね。」

やっぱり、そうきたか。
ここでバラすわけないよ、なんて言っても逆効果な気がする。

「…言っとくけど、私に弱みなんてないよ。」

いや、嘘。
一個だけある。

私の気になってる人が中村くんってこと。
でもそんなこと絶対言えない。

「ふーん。まぁ作ればいいし。」

「え、作る?」

作るってなんだろう。

そう思った瞬間、私の視界は一気に中村くんで埋め尽くされた。

突然の事で頭が働かなかった。
抵抗する力なんて私にあるわけなく、学校の校舎裏で私は初めてキスされた。

何も考えれなかった。
無理やりされてるはずなのに、嫌じゃなかった。

ただ、頭の中は甘かった。










私から中村くんが離れたあとも私は言葉を出せなかった。
思考が追いつかない。

私の口に残っているのは、甘い甘いイチゴ味。それだけ、わかる。てっきりタバコを吸ってたから苦いかと思ってた。

「なんでって思ってるでしょ?」

見てよ、これ。

言われて見たのは白い棒状の先に付いているピンク色の透き通ったガラス玉みたいな、あれは飴?

「え、タバコじゃないの?」

私がずっと勘違いしてたものはタバコじゃなく、ピンク色のイチゴ味の飴だったらしい。

もう、拍子抜けだ。
あんなに考えてたのに。
やっぱりタバコなんて中村くんは吸わなかったんだ。

「なんで、嘘ついたの?」

気になった。なんで嘘ついたのか。なんでキスしたのか。

「ん?嘘はついてないよ。タバコって俺一言も言ってない。」

え、そうだっけ。
まぁ、それはいいや。
もう一つのほう。なんでキスしたんだろう。
このキスのせいで私の思考回路はめちゃくちゃだ。この男子どうしてくれよう。



「…じゃあ、なんで、キス、したの?」



相手の目が見れない。逸らしてしまう。
強く言って、気にしてませんオーラを出して言ったつもりだけど多分無理だ。
顔が熱いもん。


「それは…内緒。」






内緒は、ずるいよ。
顔みたらバレバレだよ、お互い真っ赤だよ。





完全に堕ちてしまった。





苦くて甘い君に。



END.
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