新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
けれど。



「……ッ、」



また、あの感覚。

目も開いていて、自分は間違いなく起きているのに、瞳が映す景色がさっきまでのものと少し変わったのがわかる。

一瞬、周りの音が何も聞こえなくなった。その間、視界に映る光景がやたらと遅くスローモーションに感じる。

夢の中にいるような空間で、目の前にいたのも皐月くんだった。

同じ色のテーブルを挟んで。同じように、そこには様々な料理やグラスが並べられていて。

ただ違ったのは、彼の髪が今より少し短くて、着ているシャツが長袖だったこと。

腕まくりで覗く手首にさっき見たものと同じ腕時計を見つけた瞬間、聴覚が戻って目に映る景色も動き出した。



『……なあ、宮坂』



彼がそうつぶやき、うつむき気味だった顔を上げた。

まっすぐに“私”と、視線が交わる。



『俺と、結婚しないか?』



かけられたセリフに、目を見開いた。

その瞬間、強めに肩を掴まれる感触がして、ハッと意識がクリアになる。

ふと気づけば、テーブルの向こう側から身を乗り出した皐月くんが、焦った表情で私の左肩を掴んでいた。



「礼、どうした? 大丈夫か?」

「あ……うん、だいじょう、ぶ……」



唐突に夢の中から引っぱりあげられたような感覚に、少しぼうっとなっていた。

だけど、心配そうに私の顔を覗き込む皐月くんを見ているうち、だんだん頭が働き始める。
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