【社内公認】疑似夫婦-私たち(今のところはまだ)やましくありません!-
 当然、森場くんと二人きりになる機会もなければ、昔の思い出話を持ち出せるような雰囲気でもない。

 ベッドの完成自体が少し先延ばしになり、技術開発室にこもることになった斧田さんから「もう後出しはなしにしてくれ! アイデアがあるなら全部先に言って!」と泣きつかれ、〝LUXA〟チーム一同は「それもそうだ」と納得した。

 湯川さんは腕を組み、美しい眉を困ったようにハの字にして言う。

「確かに、森場が何か思いつくたびに延期にしてたんじゃキリがないわよね」

「申し訳ないです……」

 チームのメンバーで部屋の中央の机を囲んで話し合う中、私は森場くんの隣に座って彼の様子を間近で見ていた。自分の発言によってプロジェクトの進行が遅れることを森場くん自身も申し訳なく思っているようで、彼は少しシュンとしている。

 森場くんは言いにくそうに発言した。

「企画段階で出しきっておくべきことだと思うので、本当に申し訳ないんですが……ここにきて次から次に浮かんでしまうというか。そういうモードに突入してしまったみたいで……」

「っていうことは、まだ出てくる可能性があるのか……!」

 斧田さんの悲鳴のような問いかけに心苦しそうに頷く森場くん。〝嘘はつけない〟といった感じだ。

 森場くんだって、いたずらに製品の完成を遅らせたいわけではないはず。けれど〝こうすればもっと良いモノができる〟と確信してしまったら、黙っているわけにはいかないんだろう。その気持ちもわかる。
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