【社内公認】疑似夫婦-私たち(今のところはまだ)やましくありません!-
「部長。あの……」

「ん?」

「私、その……そんなに営業に向いてなかったでしょうか?」

 考えられるとしたら、もうそれくらいしかなかった。今まで一生懸命頑張ってきたつもりだけど、特に目立った成績を収めたわけでもないからお荷物だったのかもしれない。それで受け入れ先がなかったところ、運よくプロジェクトの人が拾ってくれたとか――。

「ああ、そんなこと思ってたのか。違う違う」

 大河内部長は大らかに笑って否定した。

「正直なところ、吉澤を持っていかれるのは営業部としても痛いんだけどな。作業の手が早いし仕事が丁寧だから、得意先のウケもいい。その上瞬発力もあるから、俺としてもほんとは営業の前線でバリバリやってほしかったんだが――」

 意気揚々と褒めてくれていた部長が、急に萎れた。何かを思い出したようにふっとため息をついて。

「……勝手な話で申し訳ないけれども、社内のある人間と約束をしててさ。そいつが宣言通りの功績をあげたら、吉澤を新製品プロジェクトに投入してもいいと条件をつけていたんだ。それがまさかクリアされるとは俺も思わなくて……」

「えっ、誰がそんなことを……?」

「それは秘密だ」

 あっ、秘密なんだ……。

 なんだかよく知らないところで決まっていたらしい人事。でもそうは言っても、私がダメージを受けないための部長なりの方便なのかもしれない。その線が濃厚だと思い、私はそれ以上特に深堀りせずに異動の話を受けた。

 転勤を伴わない本社の中での異動なので、私は約二週間の引継ぎ期間を経た後、〝商品企画部〟へ移ることになる。
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