初恋のキミに約束を
再会は社内

「桜葉部長、お疲れ様です」

企画会議を終えて会議室を出た所で、総務部長に出くわした。

「この間の社内懇親会の写真がさっき出来てね。ちょっと総務に顔出し出来るかな?」

人の良さそうな親父と同年代の田貫総務部長は、見た目以上にのんびりマイペースだ。

総務部内と役員達は親しみと皮肉を込めてぽんぽこ部長と陰で言ってる。

だが社長である親父も、会長の爺さんも彼の評価は高い。

今では誰も想像付かない位に、切れ者なのだそうだ。

「中々上手く撮れててね・・・」

返事も聞く前から俺が行くのは決定しているかの様にポテポテと擬音が付きそうに歩き出す。

俺は苦笑しながらも、年々寂しくなって来ているであろうぽんぽこ部長の頭頂部を見下ろす形で歩き出した。

と言っても、会議室エリアのすぐ隣が総務部なので直ぐに辿り着いた。

「モカちゃん、商品開発部の写真何処に有るかな?」

・・・ん?モカちゃんだって?キャバクラじゃあるまいし、女子社員の下の名前をちゃん付けして、セクハラで訴えられるぞぽんぽこ部長・・・。

「はい、こちらに分けて置いてます」

何でもないように写真封筒を手渡す女子社員を見て、俺は固まった。

・・・萌香だ。間違いない。小さな頃の面影を残している黒目がちな瞳を凝視する。

自分のオフィスで遭遇するとは、思いもよらなかった。

キミは俺を憶えているのか?あの、約束を憶えているのだろうか・・・?

漆黒のショートボブに色白美肌の彼女は、ビ〇ターの犬様に頭を45度に傾げてぽんぽこ部長にニコニコと微笑んでいる。

「桜葉部長?」

一点を見つめて固まる俺を、ぽんぽこ部長は不思議そうに見て封筒を寄越した。

「あっ、すみません。会議が思ったより白熱して疲れたのかもしれないです・・・」

「そうか、そうか。次の商品もヒットが期待出来そうで何よりだよ。適度に休憩は取って、無理しない様にね。部長自らブラックな仕事してると、昨今何かと煩いから」

マイペースなぽんぽこ部長は、仏の様に穏やかな表情で釘を刺してくる。

残業時間がダントツの商品開発部なだけに、監督責任が重い・・・。

「そうだ、珈琲でも飲んで行けば良いよ。モカちゃんの入れる珈琲は美味しいんだ。モカちゃん、珈琲二つ入れてくれる?」

「了解です」

・・・いや、飲むって言ってないし・・・彼女は喫茶店の店員でも無いのだが・・・。

ウチの総務は大丈夫なのだろうか?

でも、正直彼女の入れた珈琲は魅力的だ。是非飲みたい。

総務部長席の隣にある打ち合わせブースにお邪魔して、彼女の入れた珈琲を飲む。

香りも良く、スッキリした味の珈琲だった。
確かに美味い。

・・・俺ってこんな流され体質だっただろうか・・・反省しなければ。

しかし、彼女の態度は他人行儀で、俺の事なんて、すっかり忘れてるんだろうな。あの約束も・・・。
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