さよなら、Teacher
その日も、恵は大きなため息をつきながら大学の就職室から出てきた。大学構内まで施されたクリスマスの飾りが虚しく見える。


今日はクリスマスイブ。
2人で迎える初めてのイブなのに、ヒロは父親の会社のイベントに駆り出されていった。
恵は、就職の決まらない不安と焦りを胸に抱えながら、カップルで溢れかえる街を一人で歩く。


しょうがない。ケーキとワインでも買って、部屋で求人のチェックでもするか。


しかし、ケーキ屋はお客で溢れ、とても入りたいとは思えない。


このまま仕事が決まらなかったら、きっと実家に連れ戻される。これが、東京で過ごす最後のクリスマスになるかもしれない…


恵はそう思い直し、クリスマスで賑わう街を堪能しようと歩き出した。

その時、バックの中で携帯が鳴る。


ヒロからだ。


「ヒロ?どうしたの?イベントは?」
「あぁ、平気。それよりメグ、今どこにいる?」
「大学の近く」
「じゃあさ、赤坂まで出てこれる?イベントが終わったあと、立食パーティーなんだ。
親父が、メグも是非って言ってるから、どう?」

「え…で、でも、私、パーティーに出られるような格好じゃないし…」
「そう言うと思って、ジュンに連絡してあるんだ。用意してもらってあるから、店、寄ってきて」

「でも…パーティーに行くような気分になれないな…」
「ヒデもパートナー連れてくるって言ってるし、メグが来ないなら、昔の女友達に声かけるしかないなぁ」
「…行く」

ヒロは、就職が上手くいかず恵が落ち込んでいることを知っている。
だからこそ、半ば強引に、あえて誘ってくれているのだ。

恵は電話を切ると、ジュンの店に向かって早足で歩きはじめた。
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