さよなら、Teacher
「ずいぶんと化けたものね、恵。てっきり田舎にいるものとばかり思ってたのに」
久しぶりに聞く歩の声は、昔と変わらず威圧的だった。
「ごめんなさい。こっちの大学入ったから」
恵の声は、力なくかすれたまま。
「よく、あの父さんと母さんが許したわね」
歩はそう言ってバックからタバコを出すと、ゆったりとくゆらす。恵はただ立ちすくんでぎゅっと拳を握っていた。
「それにしても。
丹下の息子と付き合ってるなんて、驚いたわ。しかも、弟の方だなんて。どうやったのよ」
「どうって…私、バイトで家庭教師やってて、それで…」
「ふぅん、あんた、子供の時からガッコの先生に、なりたいって言ってたもんね。まぁいいわ。
久坂はね、丹下とつながりが持ちたいの。なるべく強くしっかりとしたつながりが。
で、聞きたいのよ。丹下の方はどうなのかしら。あんた、あの御曹司と結婚までこぎつけられるの?」
結婚…?
想定外の言葉が飛び出してきて、さすがの恵も悲鳴のような声を上げた。
「結婚なんて!ヒロはまだ高校生よ。それに私はお姉ちゃんと違って、地位とかお金とか関係なく彼と付き合ってるの!」
歩は眉をひそめると、恵の顔にタバコの煙を吹きかける。恵がむせて咳こむのを見ながら、口の端で笑った。
「あんた、変わらないのね。相変わらずの良い子ちゃん。せいぜいあの高校生に少しでも長く可愛がられて頂戴」
歩はタバコを携帯灰皿でもみ消すと、匂い消しのタブレットを口に含み、香水を手首に振りかけた。
「まぁ、いいわ。あんたのおかげで久坂と丹下を引き合わせることが出来た。ありがとね」
歩の口から、ありがとう、なんて聞くと思わなかった恵は驚く。
歩は化粧を直して恵を放って置いたまま、化粧室を出て行った。
確かに歩は変わらず美しい。でも、幸せそうには見えなかった。