今宵、貴女の指にキスをする。

「ああ、それなら大丈夫」
「どこが大丈夫なんですか? 一度、その方に連絡した方が」

 七原に連絡を取ってもらったほうがいいだろう、電話をしようとスマホを取りだそうとカバンに手を突っ込んだ。
 だが、考えてみれば円香のスマホは堂上が持っていたのだ。
 返してほしい、と堂上に言うと、彼はニヤニヤと笑っている。

 この状況を楽しんでいるようだ。
 ムムッと嫌悪を露わにしていると、堂上は懐かしそうに目を細めた。

「変わらないねぇ、木佐ちゃんは」
「え?」
「デビュー当時から、そのしかめっ面よくしてた」

 ほら、その眉間の縦皺。円香の眉間を指差して屈託なく笑う。
 円香は慌てて眉間を押さえ、皺が伸びるように指を動かした。
 
 その行動もおかしかったのか。堂上は笑いっぱなしだ。
 再び眉間に皺が入りそうな円香だったが、気分を入れ直して堂上に再度意見する。
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