今宵、貴女の指にキスをする。

 今回、話のクライマックスにこの竹林でのシーンを入れようと思っている。
 美しいシーンにしたい。円香はソッと目を閉じて風と空気を体感する。

 円香から少し離れた場所で堂上はその後は、ひたすらカメラマンに徹してくれているようだ。
 ピピッという電子音が響く中、円香はただ目を閉じた。

 どれほどそうしていただろうか。辺りは少し薄暗くなってきている。
 ハッと気が付いて目を開けたとき、堂上は呆れたように笑っていた。

「木佐ちゃんの集中力、昔からすごいよねぇ」
「スミマセン、堂上さん。お待たせしました」

 堂上は手すりにもたれて空を見上げている。かなり待たせてしまった自覚があり、円香は走り寄った。

 だが、相変わらずの堂上の様子にホッと胸を撫で下ろす。
 そんな円香に、堂上は時計を確認して言った。

「さぁてと、取りあえず木佐ちゃんが行きたいと思っていたところには行ったよな?」
「あ、はい」

 堂上の言うとおりだ。今回予定していた取材地にはすべて足を運んでいる。
 七原との計画では、このあとに夜ご飯をどこかで食べてから帰ろうと言っていたのだが……
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