秘密にしないスキャンダル
渡さない、渡したくない。
私だってずっと……デビューしたときからずっと隆矢君を見てきたんだから。
それをいきなり現れた能天気に笑ってるだけのアイドルになんて渡したくない。

誰にでも笑顔で気さくに話すなんて演技でどうとでもできるし、馴れ馴れしく誰とでも握手するなんてファンに媚びてるとしか思えない。

ドジなところも演技かもしれないし、そうでなかったらただ鈍臭いだけか努力不足。
どちらにしても隆矢君に相応しくない。

私なら隆矢君と同じ演技に携わる職業だから、会えなくて寂しいだなんて泣いたりしないし忙しさを理解してあげられる。

隆矢君のためなら何だってしてあげるのに。
あの子じゃなくて私が彼女だったら……。

走る足を緩めたある廊下の先で笑い声が聞こえて、そっとその声がする方に視線を向けてみた。
するとそこには勇菜が陽人と他の人達に囲まれてカフェオレを飲みながら笑っていた。

「……相応しくない……」

呟いた声は届いていないはずなのに、勇菜はこちらに目を向けて僅かに目を丸くするとじっとこっちを見つめていた。

「あんたさえいなければ……」

強く睨んですぐに視線を反らすと美佐はそのまま足早にその場を去った。
邪魔してやる、別れさせてやると強く決意して手は痛いほど強く握りこんだ。
< 99 / 223 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop