偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~

 冗談じゃないって言うなら、どういうつもりなんだろう……。結婚だなんて、とてもじゃないけど、正気の沙汰だとは思えない。

 けれど彼の瞳は真剣そのもので、わたしを混乱させるのには十分だった。

「そんなこと……」

 できるわけがない。そう続けようとしたとき、うつむいた視界の中で手首をつかんでいた川久保さんの手が、わたしの手をぎゅっと握った。

「僕の願いを……祖母のわがままを聞き届けてくれませんか?」

 まっすぐにこちらを見据えるその目に捉えられて、言葉の先を続けられない。

だまったまま彼の話に耳を傾けた。

「祖母はどうやら、あなたを僕の妻だと勘違いをしているようです。今までこういったことはなかったのですが、年齢も年齢なので……しかたのないことなのかもしれません」

 もし痴呆の症状の現れだとしたら、辛いことだ。けれど彼は現実として受け止めようとしているようだ。

「僕の家族と呼べる人は、ずいぶん前から祖母だけでした。ですから祖母の存在は特別なんです。大の男が情けないと思うかもしれませんね」

 彼の言葉にわたしは否定の意味を込めて頭を振った。

< 48 / 209 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop