冷やし中華が始まる頃には
帰り道
皿の形が完成する頃には、外はすっかり暗くなっていた。

峯岸が階段から2階の居住スペースに向かって声をかける。

「母ちゃん、門野さん送ってくるから車使うわー。」

その言葉を聞いて、ドタドタと峯岸の母が階段から降りてきた。

「あら、すみません。せっかく来ていただいてたのに全然ご挨拶もできなくて。」

とならに向かって優しく言う。
とても綺麗だが、化粧や服装はいたってカジュアルな優しそうな女性だ。
彼女は峯岸に向かって「なんで早く教えてくれなかったの。」と軽く叱る。

「もう外暗いから、大和、駅まで送ってってあげるんでしょ?そうした方がいいわ。ご飯、食べてくるの?」

峯岸の母がさらりと峯岸とならの2人に向かって聞いてきた。

「ああ、なんか食べてくる。」

峯岸もさらりと返事をする。

「そう、じゃ気をつけてね。また、いらっしゃいね。」

彼女は最後まで笑顔で見送ってくれた。

2人は車に乗り込む。

「ってことなんだけど、ご飯とか準備してた?」

峯岸の問いかけにドキッとする。

「いや、全然。」

ならは、急いで実家の母親に「夕ご飯食べて行きます」とメールする。
お母さん、ごめんなさい。

「じゃあ街まで行った方が良さそうだな。どこかで食べましょう。」

峯岸はそう言うと、車を走らせた。

「母ちゃん、たぶんちょっと勘違いしてると思う。」

突然峯岸が言ってきた。
ならは「え?」と答える。

「ならちゃんのこと、彼女だと思ってそうだなー。あとで母ちゃんに訂正しとくわ。」

別に勘違いされてもいいんですけど。
そう思いながら「やだー」と思ってもない言葉を口にする。

「こういうハッピーな話題、最近乏しい家庭だったからさ。全然違うって言ったら母ちゃん落ち込むわ。」

峯岸は笑いながら言う。
私で良ければハッピーな話題作りに貢献するんだけどな。
ならは笑い流しながら窓の外に目をやる。

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