冷やし中華が始まる頃には
「あ、そういえば」と峯岸は話題を変えた。

「今日こっち来たの?」
「ううん、昨日の夜帰ってきてて、今日帰る予定。」
「まじかー、忙しいねー。大丈夫?こんなんで時間とってて。」

峯岸のさりげない一言も聞き流せなかった。

このためだけに帰ってきてるんだよ。

ならは「うん、大丈夫。」とだけ答える。

「新幹線何時?」
「17時5分かな。」
「意外と時間ないじゃん。ごめん、お昼まで引き止めちゃって。何か予定あったんじゃない?」

峯岸の妙な気遣いに、余計傷つく。

「うん、でも13時半だからまだ大丈夫。」

ならは時計を見ながら、咄嗟に嘘をついた。

「そっか。でも忙しいのにわざわざ来てくれてありがとう。」
「うん、元気そうで良かった。」
「そうだね、・・・ごめん。」

峯岸はどことなくバツの悪そうな顔をする。
ならには「ごめん」の意味が分かった。

3年前から今までの「ごめん」だ。

この3年間、私がどんな想いで過ごしてきたかも知らないで・・・

たったのそれだけか。

「ごめんって、なにが?」

ならの口から溢れ出るように一言が出た。
意地の悪い質問をしてしまったとならはすぐに後悔する。

でも、「ごめん」だけだと納得できない。

ならは峯岸の顔を見ていられず俯いた。
峯岸は一言一言言葉を探しながら答える。

「ごめん。あの頃は俺もまだまだ子どもだった。」
「・・・」
「話し合うこともできなくて、ただただ変わっていくならに嫉妬してた。」
「・・・」
「眩しく見えたっていうか。」

峯岸のその言葉はどこかで聞き覚えがあった。
ならは震える声で言った。

「・・・元カノと一緒なの?」
「え?」
「またそうやって勝手に一人で溝作って、勝手に追いやって・・・」

ならは涙で滲む目で時計を見る。

「ごめん、やっぱりもう行くね。」

そう言って席を立つ。
峯岸が「なら、待って。」と腕を掴んだ。

ならは強い眼差しを返す。

「大和に会いに来たんだよ。」

ならは振り絞るように消えそうな声でそう言うと、峯岸の腕を振り払って店を出た。

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