キライが好きに変わったら、恋のリボン結んでね。
 言いかけた言葉は、宙斗くんの熱い抱擁に掻き消える。頬に当たる硬い胸板、自分以外の体温、背中に回る力強い腕。それらから伝わってくるのは、私への想いだった。

「好きだ、飛鳥」

「あっ」

 耳元で響くきみの声に、体の芯から指先まで甘くしびれる。鼓動がトクトクと早まり、突き上げるような幸福感にまた涙がこぼれた。

「ずっと、大事にする」

 そう言って宙斗くんは私の髪に触れると、持っていたリボンでひとつに結い始めた。

「え、宙斗くん?」

「俺たちの心がもう離れないように、ちゃんと結んどかないとな」

 彼の囁きを聞きながら、私は心がふわりとするのを感じる。

 キライが好きに変わった。そして好きが永遠に変わるように、私たちは恋のリボンを結ぶんだ。

「ほら、できた……って、また泣いてる」

 宙斗くんは私の目元を、指で優しく拭う。

「ご、ごめん。つい、うれしくて」

「飛鳥を泣かせたら、俺、去勢されるだろ」

「私の親友、キレイな顔をして言うことがえげつないよね。でも、冗談だと思うよ」

「いやあの顔は本気だった」

「そうかな……。いや、言われてみるとそうかも」

 私たちは神妙な面持ちで見つめ合うと、同時にぷっと吹き出した。ひとしきりクスクス笑いあって、そらから宙斗くんはゆっくりと私の顎に指をかける。

「あのっ、これはなんでしょうっ?」

    

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