キライが好きに変わったら、恋のリボン結んでね。
 私たち、ちゃんと手を繋いでる。宙斗くんの手は骨ばっていて、冷たくて、でも優しい。好きな人と手を繋ぐって、こんなに幸せな気持ちになれるんだ。その感触を確かめるように、もう一度握って顔を上げると──。

「……うっ……もう、だめだ……。俺、死ぬ……」

「し、死ぬ?」

 宙斗くんの顔は父親が飲み会の次の日、二日酔いでリビングにやってきたときの顔と同じだった。真っ青な顔でブルブルと震えて、今にも倒れそうになっている。彼の女嫌いを克服するには、まだまだ先が長そうだ。

 私は苦笑いを浮かべてそっと手を離すと、彼が握っていたリボンを掴む。

「宙斗くん、今度は宙斗くんの行きたいところに行こう。デートらしいとか、人の目とか、気にせずに!」

 私は気を取り直すように笑顔を浮かべて立ち上がり、そのリボンを軽く引いた。

「お前……だから、あいつ等を撒いたのか?」

「ここからは、私たちだって楽しみたいじゃん?」

「……そうか、ありがとな」

 宙斗くんはそう言って、照れくさそうにそっぽを向いてしまう。

 ありがとう……か。拒絶以外の言葉を聞いたの、久しぶりかも! というより、今日はわりと普通に話せてる気がする。

「宙斗くん、どこに行きたい?」

「雑貨屋、気になってるとこがある」

「じゃあ、そこに行こう!」

 ふたりで歩きながら、これからの予定を決める。

 あ、こういうのっていいな。 なんか、自然体で無理してない感じが本当のデートっぽい。

    

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