さよなら、センセイ
13.プロポーズ
職員室に戻り、残務に取り掛かる。
だが、仕事は全然進まない。時間ばかりが気になってしまう。

「若月先生、よかったらご飯食べに行きませんか?」

山中が、声をかけてきた。
山中と一緒にご飯を食べるくらいなら、さっさと帰ってしまいたい。

「…すみません。
今日は、これから生徒達と合流するんです」

さっと机上を片づけ、恵は立ち上がった。

「お先に失礼します」

山中に何か言わせるタイミングも与えず、恵は学校を出た。
だが、お好み焼き屋に行く気にはどうしてもならない。



気づけば、ブティック「JUNN」の前まで来てしまった。

店内には客が多い。いかにも仕事帰りのOLの姿ばかりだ。

その中に紛れて恵も店内をふらつく。
そこには、ヒロの姿も、ジュンの姿もなかった。

「そちらのカーディガンは、カシミアです。あったかいですよ」

何となく手に取った黒のカーディガン。店員に勧められて、鏡の前で合わせてみる。

「そおねぇ。黒はチョット堅苦しいわねぇ。チョークで袖も白くなっちゃうわ。
おススメは、こっちのピンクベージュ。顔がパッと明るく見えるわよ〜」

店の奥から姿を見せたかと思うと、ジュンがあっという間に恵の隣に立つ。

「ジュンさん…こんにちは」

「恵ちゃん、待ってたわよ〜
しばらく遠くに行くんだって?淋しいわ〜」

「…ジュンさんには色々お世話になりました。
もう、ここには来れないかもしれません」

「嫌だぁ〜そんな淋しいこと言わないでぇ。
ヒロに会いに来た時は、必ず寄ってね?」

「…」

ヒロに、会いに来る、か。

「め…恵ちゃん⁉︎チョット、どうしたの⁈」

「す、すみません。
なんか涙腺ゆるくなっちゃって…」

「やだ、とりあえずこっちの部屋に来て」

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