さよなら、センセイ
14.さよなら、センセイ
そして、いよいよ、光英学院高校の卒業式当日となった。


「…以上三年A組38名。

代表、丹下広宗」

「はい」

ヒロの高校生最後の姿を、恵は教職員席から万感の思いで見つめた。

あっという間の一年だったが、充実していた一年だった。


ヒロは、校長から卒業証書を受け取り、父兄席にまず頭を下げ、そして教職員席に頭を下げた。
その時、一瞬、恵と視線が重なった。
恵の胸に熱いものがこみ上げる。


ーーハン、勉強なんて、する気ねぇよ

ーー恵センセ、やっぱ、英語っておもしろいかもしれないなって思った

ーーそんな最低のヤツのことなんて忘れろよ。一秒でも早く。


初めての教え子だった。それがグイグイと惹かれて、いつしか、恵にとって唯一最高の男になっていた。


卒業式が終わる。
恵は担任クラスがないので、一旦職員室へと戻った。

「いやぁ、良い式でしたね。何ごともなく無事に終わって何よりでした」
「…そうですね。
私、教員になって初めての卒業式だったので、涙が止まらなくて」

恵の言葉に一緒にいた教員がうなづく。
恵は大きく息をついて自席の椅子に深々と腰かけた。


その時。

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