さよなら、センセイ
17.さよなら、teacher

「丹下先生、雪!雪が降ってきよった」

生徒の声に恵も教室の窓を見る。

12月。外はどんよりと雲が垂れ込めていた。

「本当だ。今日は冷えると思ったわ」

冬生まれの恵は、もうすぐ29歳になる。
30歳までのカウントダウンも、いよいよ現実味だ。

「期末さえ終われば、冬休みにクリスマス!早く終わらないかなー」
「クリスマス、どうする?」
「私は大学の下見も兼ねて、東京に行くの」
「えーいいなぁ」

生徒達は、ワイワイと騒ぎだす。時計を見ればあと2、3分で授業終了のチャイムが鳴る。

今日の授業はここまでだな、と恵は教科書を閉じた。

「先生は?丹下先生はクリスマスどうするの?」
「どうって、仕事だよ?」
「東京さいるって旦那さんのとこに行ったりせんの?」

恵はその問いに笑ってごまかす。と、都合良くチャイムが鳴った。

「さてと、じゃ、今日の所までが試験範囲だから、しっかり復習しておいてね」

そう言って恵は教室を出る。


昼食の時間になり、生徒達も廊下に溢れ出していた。
恵も教材を片付け、食堂へと向かった。

「あっ、めぐみ先生!一緒に食べましょ?」

恵が食堂で定食を食べ始めると、自然と生徒が集まってくる。

「ねぇ、先生。東京のクリスマスってどんな感じ?」
「そうねぇ、とにかくあっちこっちでイルミネーションがピカピカしてて…綺麗よ。
イブとクリスマスは、右見ても左見てもカップルだらけ」
「やっぱり、ドラマみたいなんだー。
見てみたーい」

などと話していると、生徒の一人がふと気付いた。
「あれ、珍しい。校長が食堂に来とるよ」

生徒が指差す方向を見ると、校長がスーツ姿の男性と話をしている。

「お客様みたいね。
いつもは校長室なのにね」

恵は気にも止めず食事を続ける。

確かに珍しいが、あの様子からして、昼時前にコーヒーを飲みながら話をしているうちに、長引いてしまったのだろう。

恵の席からは、校長が相好を崩してニコニコしている顔が、相手の背中越しに見える。

「おっ、丹下センセ、それ、Aランチ?
オレもそれにしようかな」
通りかかった男子生徒が恵の食べかけを覗き込む。
「これ、Cランチ。Aは売り切れだったの」




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