さよなら、センセイ
4.水泳競技会

ひと雨ごとに暑さが増し、夏が始まった。

水泳部三年生にとっては最後となる競技会が迫っていた。
必然的に恵の指導にも熱が入る。

「立花さん、すごい。タイム上がってる」
恵はまず褒める。どんなにヘタでも良いところを見つけて褒めてくれる。それでやる気が出たところで適切なアドバイスをさりげなく入れた。

「そうね、飛び込む時に、もう少し頭を下げてみて。腕と同じ高さ」
「こんな感じ?」
「そう!」
「あーなるほど、スムーズに水に入れる」



「若月が来てから、皆すごく上手くなったと思わん?」
綺羅に指導する恵を見ながら、男子部員がヒロに言った。

「簡単な事しか言わないんだけどさ、その通りにしたら水が急に軽くなって。
アイツ、スゲーよな。
丹下、こりゃ今度の競技会、いいとこいくんじゃね?」

「さぁ、どうかな」
ヒロは興味なさげな返事。

「全く、丹下は欲がねぇよなぁ」

ヒロ自身は、競技会でいつも入賞する。
でも、達成感なども感じられず、結果には何の興味もなかった。

ヒロはプールに飛び込み、ひと泳ぎする。


「丹下くん、ちょっと、待って」

水から上がろうとするヒロを止めて、恵がプールに入ってくる。


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