さよなら、センセイ
8.敵対視


「あ、若月先生!」

先程、一条に急な仕事が入った。
彼が迎えの車に乗るのを見送ってから、恵が水泳部の屋台に向かっていると、山中に呼び止められた。

「驚きました、あの一条君とお知り合いでしたか」

昨日の告白を思い出し、恵は眉をひそめる。

「えぇ、たまたま…学生時代に」
「あぁ、そうですね。
若月先生も、ついこの間まで大学生だったんですよね」

相手が自分に恋愛感情を持ってると知って、もう、今までのように気軽に話が出来ない。

「すみません、水泳部の方に行かないと…」


「あ、めぐみせんせー‼︎
焼きそば、売り切れたのー‼︎
先生の分、とっといたよ、たべて〜」

綺羅の声だ。
呼ばれてこれ幸いと恵は駆け寄る。

「ありがとう、立花さん!
もらうよ!お腹すいてたの」

「へぇ、焼きそば完売か。
水泳部がやりますね」

「何よ、山中先生、イヤミな言い方ね!
思ったより早く売り切れたのよ?」

綺羅はふくれっ面で山中をにらむ。

「丹下部長のおかげ、じゃないのか」

あざ笑うように、山中はヒロを指差す。

売り切れと知って残念がる客に詫びている、ヒロ。
お詫びに、と写真に応じている。

「皆、一生懸命準備したんです。
プロにつくり方を教えてもらって練習したり…ね?
うん、美味しい!立花さん、美味しいわ」

恵は受け取った焼きそばを口に運んで大げさなくらい褒めた。


今までは、同僚として信頼していたから、気にしていなかったが、
山中の言葉は何だか不快感を覚える。


< 64 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop