偽装結婚ならお断りです!? ~お見合い相手はイジワル社長~

 ペラッとファイルを一枚めくる。今日の試食会の出席者の一部分を指先でなぞり、深いため息を漏らした。

「社長……がネックなんだよね」

 一年前プレジールを父親から受け継ぎ、二代目社長に就任した元我が上司、逢坂真史(おうさかまさふみ)。三十二歳、独身。

 きりりと整った眉に、切れ長の大きな目。端正な顔立ちに、百九十センチ近くはあると思われる高身長。まるでファッション誌から抜け出してきたモデルのような日本人離れしたスタイルに、初めて会う人誰もが一瞬で目を奪われた。

 かく言う私も、そのうちのひとり。

 三年前。私がプレジールに入社したとき、逢坂社長はメニュー開発事業部の部長として、その手腕をいかんなく発揮していた。

 クールで無愛想だけど誰もが認める実力の持ち主に、憧れを抱くようになるには、そう時間はかからなかった。






< 4 / 195 >

この作品をシェア

pagetop