夜をこえて朝を想う
第21話

side M

「…平成生まれなの!?」

彼の生年月日を何度も確認した。

…4つ。

4つしか変わらない。

…いや、体力あるなー…とは。

彼は脱力したように、項垂れた。

「あのねぇ…」

「冗談よ。まあ、驚いたのは事実。これ、すごい、個人情報ね。」

だけど、こういうのって…本籍…とか環境変えたり結婚したり…

まぁ、よくわからないけど、記載されない場合も多いって…

まだ独身なら、関係もない。

「あなたが、独身なのは知ってます。まだ、独身なこと。」

何になるというのだろう、この紙が。

彼は、深いため息をつく。

「湊…」

「いいのよ、もう。」

「俺が、よくないんだよ。」

「結婚、するんでしょ?」

「君が、してくれるなら。」

もう、…いい加減にして欲しい。

「いないんだよ。恋人も、妻も、愛人も。」

「そんなわけ…」

「うん、分かるよ。俺みたいに、完璧な男に恋人がいないなんて、おかしいだろ?」

「…そ…」

自分で…言う?

「居ないんだから仕方ないだろ。誰でも言い訳じゃないし…それに…湊だって、そんなに綺麗なのに恋人いないんだろ?」

「いる。」

なんちゃって、二宮くんが。

「…少なくとも、俺と出会った時はいなかった。」

「あの男性が“奥さん”って言ってた。“結婚前に遊んだ”って。」

「接待だよ。」

「麗佳さん?」

「ああ。何だよ知ってるのか。」

「“奥さん”は…」

「湊との交際で結婚を考えてるのかって聞かれたから、考えてるって言ったら、それ以来“奥さん”って呼ぶようになったんだよ。付き合ってると、少なくとも、俺は。そう思ってた。」

え……

「あのホテル…」

「貰ったんだよ。会社で、接待で取ったのがキャンセルになって。あのカップルにあげるつもりが…吉良くん、走ってっちゃっただろ?」

泣かないって…

この人の前では。

決めてたのに。

「出会ってすぐに…」

「うん。」

「好き勝手に抱いたじゃない。」

湛えきれなくなったものが…溢れ出す。

もう、無理だった…

じゃあ…

じゃあ…

彼が私を引き寄せて、涙を拭う。

だけど、逃れる…彼の胸を…押し返した。

「…ごめん。嫌だった?」

「夜に会って、するだけだった。」

辛かった。

虚しかった。

愛のない…セックスは。

「それは…1週間に1回とか2週間に1回しか会ってないわけだし…」

…ペースとしては、普通…なのか。

「彼氏いる?って確認しなかった。」

「家だって、聞かなかった。」



「あっちの部屋閉めたままだし!キッチンも綺麗だもん。」

彼が立ち上がり、その部屋を開けた。

え…何か…ギリギリ、ドアが開くくらいの…

「汚…っ」

「言っただろ?キッチンは使ってないからな。」

「…連絡は俺から…って…私からはしたらダメ…」

「いや、教えてくれなかったからだろう!社用携帯、プライベートで使ったら問題だろ?」

…そうだった。

「私に、興味が無かった。」

「私の事は…何も聞いて来なかった。」

「キスマーク、付けたくせに、自分は嫌がった。」

「…いや、俺…そこそこのポジションなんだよ。会社で。いい年して、そんなん付けて行けるわけないだろ?何言われるか…」

そうだった。

「この家だって、一人で住むには広い。」

「ごめん、そこそこ…貰ってるんだよ、俺。」

「それに…」

「それに?」

でも、止まらない。

八つ当たりのような…

言いがかり。

自分の勘違いの恥ずかしさを誤魔化すような

言いがかり。
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