夜をこえて朝を想う
翌日、白んで来た空に外の景色が薄暗く見える。人気のない朝の気配…。

同時に、夢から覚めた事も。

後悔

自責の念

それらを取っ払った。

夢だった。それだけ。

横で寝ていた人に視線を落とした。

…ハンサムだなぁ。やっぱり。

性格までハンサムだった。

最高の夢でした。

十分過ぎる人…夢くらいでしか相手をしてもらえないような。

でも、酷い人。

結局、恋人?奥さん?好きな人?

『湊、彼氏いる?』

聞きたい質問は、聞かれた時にすぐに聞き返すべきなのよね。

タイミングを逃した。

でも、もう…いいんだ。終わった。

そっと、部屋を見回し、下着を身に付けた。

外からは見えないとしても、明るくなってきた外の、ガラス窓の側でこの姿は何だか恥ずかしい。

窓から離れ、服を着た。

昨日と同じ、服を。

帰ろう。…彼が…起きる前に。

最後に、もう来ないだろう部屋を見渡した。

昨夜のリアルなリフレインに赤面する。

ベッドの近くのバッグに伸ばした手が

大きな手によって、止められた。

驚きで、心臓が大きく脈打った。

「酷くない?」

そう言った彼が、私を抱き寄せ、顔を近づけてくる。

慌てて、彼の口を手で押さえた。

「何?朝のキスは嫌?」

ごく自然にそう言った彼。

精一杯の笑顔を作って言った。

「夢は、朝には覚めるものですよ。」

「湊、俺は…」

また何か言いかけた彼の口を…指先で塞いだ。

「ありがとうございました。素敵な…夢だった。」

そう言って、部屋を出た。

これで、いい。

パスポート、実家だったかな。

まだ切れてないよね。

大学の卒業旅行で使った。うん、大丈夫だ。

同時に方向性も考えないと

貯金はあるけど、無計画だとすぐに底をつくだろう。

何もない、0からのスタートに。

極上の男だった。

その証拠に、ほら…吉良くんの事が頭から消えちゃった。

ふっと笑みが溢れて、周りを見回した。

大丈夫、見られてない。誰にも。

上手くいったかな。

あの二人。

ほんと、…美男美女。

これでいい。

また新たな痛みが作られた気がしたけれど

気づかない振りをした。

きっと、痛みは彼にではなく

またしても、相手のいる人を引き寄せた事によるもの。

その痛みに、過ぎないから。

次第に、高くなっていく日を浴びながら

スタートに相応しい青空を見上げた。

スッキリとした、その青空を。

その青空と同じように、身も心もスッキリと…

スッキリとしたはずだった。

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