夜をこえて朝を想う
第12話

side S

“最高”そう言ったのは、本心なのか

俺に気を遣わせない為だったのか…。

「今日はもしかしたら、夢なのかしらと思う程です。」

そう言って、俺の空になりそうなグラスを見て

「次、何飲みます?もう少し、飲めるでしょ?」

可愛らしくそう言う彼女に、酒も進んだ。

久しぶりに楽しい。

仕事関係でもなく

誰に気兼ねすることもない…申し分のない相手。

これきりにしたくはなかった。

するつもりも、なかった。

そろそろ自分の事を優先したい。

そう思っていたのが、後押ししたのか

あの、可愛いカップル誕生に感化されたのか

淡い失恋のせいか

それとも単純に…

俺が彼女を、帰したくなかったのか。

「そろそろ…時間が…」

時計を見て、そう言った彼女に

思い出した。

あの二人に渡しそびれたプレゼントを。

「明日、休みだよね?」

「…ええ。」

たまには、何も考えずに、自分の感情を優先してもいいか。思いのままに…動いたって…。

そうしたい。

「今日、そこのホテルに泊まるんだ。」

そう言ってそっちに視線を走らせた。

「えっと、こっちの人ではないんですか?」

「いや、たまたま部屋をね。もちろん、シングルじゃない。」

そう言って…ゆっくり彼女を見ると

そっと、手に触れた。

暫く、見つめ合って

「…出ようか。」

そう言って店を出ると

彼女はYESの返事の代わりに、俺の腕に自分の腕を絡めると

「いい夢だわ。」

俺に身体を預けるように、そう言った。

いいもんだな、インセンティブってやつも。

いいもんだな、一人じゃないって。

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