夜をこえて朝を想う
第14話

side S

どうやら、携帯を持ってないのも本当らしい。

というか、嘘をつく意味もないだろう。

共通の知り合いがいる。そんな状況だからこそ…安心感が後押しし、深くは追及しなかった。

「今日は泊まる?」

そう言った俺に

「明日仕事だよ?」

彼女がそう言う。

「職場、近いんだろ…じゃあ…」

「誰かに…見られるよ。」

恥ずかしい…か…。

結構気にするんだな。

「堂々としてれば…」

そう言って、コーヒー1杯と飲み終わらないうちに…

触れる。

抱き寄せる。

甘い。ただただ、甘い。

湊の香りに…早々に理性を失う。

全部、覆うように、湊の可愛いらしい唇に口づける。

歯止めが利かない。

せっかちだと言われたばかりなのに。

またクスクスと笑いだす彼女。

彼女も、すぐに余裕を無くすほどに…溺れればいい。俺に。

誰も阻む者はいないのだから。

すぐに俺に応えるように、彼女の薄く開いた唇に、深く入っていく。

口づけながらも、1つ1つ…取り払っていく。

高揚感。

そして…支配欲。

その支配欲を安心感が包む。

俺の…ものだと。

彼女の羞恥心すら。

片手で抱き上げ、膝の上に乗せると

そのままホックを外す。

恥ずかしさがピークを迎えたのか、目を逸らす。

「嫌だわ、部長…私…そんなつもりじゃ。」

「ここまでついて来といて、それはないだろう?」

彼女の昼ドラのようなセリフに乗っかる。

…今日は冗談を言う余裕があるのだな。

そうか、ちゃんとした…形を取ったからか?

クスクスと笑う。

「何、そんな感じのが燃えるの?」

そう言うと

「もう…」

そう言って、軽く俺の胸を押す。

自分から言ってきたのに、おかしな奴だ。

そんな些細なやり取りさえも、甘く…

小さな痕を残すように、胸元、その下…

口づける。

わざとらしい、リップ音が響く。

身を捩るようにそれを避けた彼女が

俺の首元に吸い付く。

「ストップ。…俺は…いい。」

「冗談よ。」

そう言って彼女が笑う。

流石に、会社にそんな(もの)付けては行けない。

年齢的にも、立場的にも。

女性社員の噂の的になるのも…

少し、拗ねたような表情に

機嫌を取るように…弛く頬をつねる。

彼女はまたにっこり笑った。

居心地が良かった。

彼女とは。

何も言わなくても、分かってくれる頭の良さも。

空気が読める気配りも。

見た目も、何もかも。

「寒い。私だけ…脱がして…温めてくれないの?」

「…ベッド行こうか。」

そう言うと、ぎゅっと俺の首に腕を回す。

そのまま抱えてベッドへと…なだれ込んだ。

細いな。

食べさせよう。もうちょっと。

幸せ太りだと、周りから言われるくらい。

「…何?」

「んー…好きだよ。湊。」

思わず、そう言った。意図せず出た言葉に

彼女は大きな目を、少し見開くと

すぐに目を細めた。

「お上手ですわ、部長。」

余裕の有ることで。

唇を重ねたまま、全身隈無く…彼女に触れる。

余裕など、消し去るほどに。

肩で息をし始めた彼女が、俺にすがり付くように抱きつく。

潤んだ彼女の瞳が、閉じられると共に、目尻から少しの涙が流れた。

それに気づいて、目尻に口づける。

「…綺麗だな。」

そう言う俺の腰に手を這わせる。

「悪い人だなぁ…。」

この前、麗佳にも言われたな。

ちょい悪オヤジ…

「よく、言われます。」

「はは!」

彼女が笑う振動が、こちらにも伝わる。

「黙れ…もう。」

そう言って口を塞ぐ。

彼女に夢中になって

それは彼女も同じで…気づけば帰れない時間になっていた。

まぁ、いいか。

職場も、近い。

一緒に行けば…。

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