夜をこえて朝を想う
「湊!」

誰かに呼び止められて立ち止まる。

声の主の方へ振り返った。

二宮くんが居てくれて…良かった。

一瞬、清水部長かと思ったが

声も姿も…違う。

そこにあったのは…

嫌な想い出しかない…新卒の時の…男だった。

「やっぱり、湊だよな!俺…えっと…」

彼は二宮くんに目をやり、言葉を濁した。

思わず、二宮くんの服の端をぎゅっと握り

それを察した彼が

「あ!やべ、昼休み終わる!」

そう言った。

すると目の前の男は名刺を取り出すと、後ろに何やら書くと、手渡して来た。

「話したい事があって、これ!連絡欲しい。必ず。」

それを無理矢理渡すと、彼は去っていった。

「誰。」

「昔、の…。」

「話なんてしたくない、人?」

黙って、頷く。

「むしろ、一生会いたくないくらい。」

「なるほど。」

震える手が

まだ、二宮くんの服を握りしめていたことに気づかず

彼がそっと、離してくれる。

会いたくなかった。

よくも声なんて掛けれるものだな。

嫌な汗が額に滲んだ。

「行こう。」

二宮くんがそう言うまで、そこから動けなかった。

「冷たっ」

急に頬に冷たい感触。

「あげる。」

見ると、フルーツと野菜のスムージー。

私が選ばないような女子力の高いやつだ。

「君が、飲もうと思ってたやつでしょ?」

「あげる。」

「…ありがとう。」

その場でストローを刺して一口。

スッキリとした、甘さと酸味が口の中で広がる。

「女子力高っ」

「美味くないです?俺これ…好きなんですよね。」

「うん、美味しい。二宮くんぽい味。」

私がそう言うと

パッと手から取り、彼も飲んだ。

「くれるんじゃないの。」

「間接キッス。“ぽい”じゃなくて、“俺の味”になったやつ。」

そう言って、私の手に戻す。

「いや、飲めない!飲めなくなるから!」

「ピュアだね~。」

迂闊にも赤く染まるのが分かった。

「チャラ眼鏡!」

「間接じゃないの、したいな~」

「バ!何言ってんの。」

「はは、何言ってるんでしょー。」

悪びれる事もなく、彼は笑った。

チャラ…。

彼はこうやって年上のお姉さん方を魅力するのだろうか。

怖い、怖い。

小悪魔だな。

だけど、ちょっと…気が紛れた。

もう会うこともないと思っていた、男との再会に。

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