迷惑なんて思ってないよ
雨が降る中、私は一人で両親と暮らした家があった場所まで向かった。今日ほどあの日の町並みが跡形もなく崩れていてくれて良かったと思った事はないんじゃないかな。
何か神秘的な物にでも守られていたかのように残っている祖母のピアノ教室にあったピアノ。通っていた小学校に行けば担任の教師と一緒に過ごした教室の黒板。同級生の家に行けば一緒に落書きした二段ベッドの破片。所々見覚えがあるけれどここがあの頃の楽しくて平和な町だったとは思わない。思えないの方が合っているのかな。
ただそこに佇んで何も考えられない私の目に飛び込んできたのは晴人が探していた両親だった。と言っても両親の姿が見えた訳じゃない。雨のお陰で少しだけ崩れた瓦礫の中にあの日、父が着ていた服が見えたんだ。すぐに取り出したかったけれど、私の力では上に乗る瓦礫を動かす事が出来ない。私はありったけの声を使って津田さんを呼んだ。
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