ヴァンパイア†KISS
二人が無言で走りついたその先は。

エイダが住んでいた焼け爛れた瓦礫の中だった。

エマはエイダをぎゅっと抱きしめるとその小さな体を瓦礫の下に埋めて、祈りを捧げた。

カルロはその時のエマの表情をその先ずっと忘れることはないだろう。

エマは全ての哀しみを洗い流したかのような、聖母のような表情でエイダを送っていた。

まるで、悲しいのはエイダ、わたしじゃない……とでも言うように。

死んでしまったエイダの哀しみを癒すかのように、エマは穏やかな微笑みでたたずむ。

その夜。

ある錆びれた今は使われていない工場跡を見つけたカルロとエマはそこで身を寄せ合って眠りに付いた。

(エマ、僕は君だけは絶対に不幸にはしない)

カルロはエマが寝息をたてて寝ているのを確認すると、夜の工場をそっとあとにした。

(ヴァンパイア……ほんとうにいるなら、僕の血を吸ってもいい。僕を強く、涙なんて流さない獣にしてくれ。たった10歳の僕達には、もうこの街で生きていく術なんて他には、ない)

無意識に歩き続けたその先に。

カルロは、昼間エイダを埋めた瓦礫のなかでうごめく人影を見た。

人影は黒のマントを翻すと、埋められたエイダを掘り起こし、その口を大きく開かせた。

そして自らの手首を噛むと滴る血をエイダの口へと流しいれる。

(…な……!)

数秒ののち。

エイダは「にゃあ…」と鳴き声をあげると、人影の手を離れて瓦礫の中へと入っていった。

(まさか……)

人影は振り向く。

「君を見ていた……。そしてここに来ると。私はわかっていたよ、カルロ」

振り向いた人影は、腰まである長い銀髪を月夜の風に流れるようになびかせると。

バイオレットの瞳を妖しく月に共鳴させた。

「あなた……は、ヴァンパイア?」



「ウルフガングだ」





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