ヴァンパイア†KISS

100年キスして†第1夜†

1898年、2月。

ロンドン。

「きったねぇなぁ……」

「近寄らないに越したことはないよ」

小奇麗な洋服を身にまとった人々が口々に悪態をついては顔をしかめて去っていくロンドン郊外の一角に。

カルロは薄汚れたボロ切れのような服をまとい、地べたに座り込んでいた。

ならず者と酒と娼婦が行き交い、ロンドンっ子にも見放された腐臭漂うこの路地裏は、カルロの美しい金髪と育ちの良さを思わせる麗しい顔でさえ、人々の同情を誘うことはなかった。

(今日は、僕の誕生日だった……)

カルロは自らの10歳の誕生日の過酷を思い、人知れず涙を流した。

(母さんと父さんは、僕を捨てたんだ…。僕は……捨てられた)

カルロはイギリスでも大地主であった父と母が信じる者の裏切りにあい、その立場を追われ両親が失踪する直前に人買いに売られた後、逃げ延びてここまでたどりついていた。

(僕はもう……誰にも愛されることはない。死んだって、構わないんだ……)

無為な表情で雪の降りしきる空を見上げ、カルロは死を望んだ。




「君、幸せだったんだね」

不意に声がしてカルロが振り返ると、金糸の巻き毛を麗しくまとった白のドレスの10歳ほどの少女が立っていた。

少女は碧眼をかわいらしく細めて、バラのように微笑むと。

その真っ白な雪のような手でカルロの薄汚れた手をとった。

「幸福を失った人間はみんなそんな顔をするの。この街にはそんな人が溢れてるから。でもね、君にも絶対にまた幸福は訪れる。だから、死なないで」

「君…は?」



「わたしは……エマ」









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