ヴァンパイア†KISS
「ここが、君の家?」

カルロはエマに連れられ、同じくこの薄汚れた街の古びた家の前に立っていた。

家がないというカルロをエマの家に泊めてくれるという。

ずっと笑顔も見せない自分のために、なぜこの少女はそこまでできるのか、とカルロは不思議に思う。

「エマ、やっと帰ったのか」

手を引かれて入った家の玄関には中年の髭面のいかつい男が立っていた。

男はカルロの姿を見ると、「この売女の娘が!10歳のくせに男を連れ込みやがって!」と怒りをむき出しにしてエマの頬を殴りつけてきた。

「お父様、エイダの様子を見にいっていただけです。この子は親も家もないの。どうか、この家に泊めてあげてください。わたしがその分働きますから」

エマはなんの怒りも悲しみも見せずにそう言うと、男に微笑みかけた。

「…ふん!ネコなんかに死んだ売女なんかの名前をつけおって。お前も母親に似て、その道を進むしかないだろうな」

その夜、カルロは屋根裏の部屋をあてがわれ、エマのこれまでのつらい境遇を知ることとなった。

エマは、今の父親とは血が繋がっていないと話してくれた。

エイダは娼婦で、エマを妊娠しあてもなく彷徨っていたところをこの男に拾われ結婚した。

だが、エマが5歳になるころ、エイダがある日突然、首筋にキスマークをつけて帰ってきたことが原因でその日から男の虐待が始まった。

エイダが自分の意志ではなかったと弁解しても男は取り合わなかった。

エイダが耐え切れずに家を出ていった10日後。

エイダは街外れで遺体となって発見される。

エイダの首筋のキスマークには獣に噛まれたような傷跡があり、体の血は一滴も残っていなかったという。

父は「天罰だ」と言って涙一つ流さなかった。

それから、街にはヴァンパイアの存在の噂がひそやかに広まっていったが、それ以来誰も襲われることもなく、人々はその噂も忘れていった。

エマはそんな父に虐待を受けながらも再び幸福が訪れることを信じ、生きてきた。







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